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「WOKE CAPITALISM」/「ザ・キルスコア」 打算を超えた大義と倫理観こそ 朝日新聞書評から 

評者: 三牧聖子 / 朝⽇新聞掲載:2023年07月15日
WOKE CAPITALISM 「意識高い系」資本主義が民主主義を滅ぼす 著者:カール・ローズ 出版社:東洋経済新報社 ジャンル:経済

ISBN: 9784492444740
発売⽇: 2023/04/14
サイズ: 19cm/310,48p

ザ・キルスコア 資本主義とサステナビリティーのジレンマ 著者: 出版社:日経ナショナルジオグラフィック ジャンル:経済

ISBN: 9784863135857
発売⽇: 2023/06/16
サイズ: 19cm/334p

「WOKE CAPITALISM」 [著]カール・ローズ/「ザ・キルスコア」 [著]ヤコブ・トーメ

 昨今、環境保全や差別反対など社会的大義を掲げる「ウォーク(WOKE=目覚めた)」企業が増えている。しかし、差別や不正義に敏感なウォーク企業の台頭は、公正な社会への変革をもたらしているのか。格差は拡大を続け、所得分布の下位半分が保有するのは世界の富の1%未満。上位10%の富裕層が8割超を所有する。気候危機も止まらない。先月は観測史上最も暑い6月となった。何かが根本からおかしい――そう疑問を抱く人に勧めたい2冊だ。
 『WOKE CAPITALISM』は本当は「目覚め」ていないウォーク企業の欺瞞(ぎまん)を暴く。ウォーク企業は#MeToo運動を支持する広告を出すことや、マイノリティーを登用して経営体制の多様性をアピールすることには熱心だが、富の再分配や租税回避の取り締まりなど、不公正な経済体制の是正のために避けられない問題はスルーしてきた。企業利益に反するからだ。ウォーク企業は、聞こえの良い社会的大義によって資本主義の搾取的な性質を隠蔽(いんぺい)し、資本主義を延命させようとするものでしかない。そう著者は看破する。
 ウォークは元来、資本主義社会で最も搾取されてきた黒人コミュニティーが差別や抑圧と闘うために育んできた言葉だ。著者は、より公正な社会を願う人間の道徳心までもが企業に利用されている実態を告発し、読者に対し、抑圧や差別の真の所在に目覚め、その是正に向けた正しい行動を選択せよ、と説く。
 ウォークを装うのみの企業に気候危機の重大さを知らしめ、資本主義的な利害打算を超えた抜本的な対策をとらせるにはどうすればよいか。これほどの地球環境の危機を前にしても、企業は温室効果ガス排出量等(など)の数値を算出し、企業イメージのために数値を減らすことには熱心でも、それにより本当に気候危機は止まるのか、苦しむ人々が減るのかという帰結には関心を寄せない。『ザ・キルスコア』は、そうした数値化に自分も加担してきたサステナビリティー専門家の懺悔(ざんげ)から生まれた。企業と人間を目覚めさせるための究極の指標として著者が辿(たど)り着いた「キルスコア」とは、先進国の人間が持続不可能な生活を続けた場合、気候変動や廃棄物、過重労働等でどれほどの命が奪われるかを可視化した数値だ。気温上昇くらいでは動じない人も、自分が一生で死に追いやる命の数を突きつけられたらどうか。本書の問題提起を受け、消費や投資、政治の分野でどのような行動をとるかは、私たちひとりひとりの倫理観にかかっている。
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Carl Rhodes 豪シドニー工科大組織論教授▽Jakob Thomä 1989年生まれ。パリ、ベルリンを拠点とする独立系非営利金融シンクタンクの共同創設者。英ロンドン大東洋アフリカ研究学院特任教授。