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「創始者たち」書評 強烈な個性と起業家精神を描く

評者: 稲泉連 / 朝⽇新聞掲載:2023年07月15日
創始者たち イーロン・マスク、ピーター・ティールと世界一のリスクテイカーたちの薄氷の伝説 著者:ジミー・ソニ 出版社:ダイヤモンド社 ジャンル:経営・ビジネス

ISBN: 9784478106792
発売⽇: 2023/05/11
サイズ: 19cm/653p

「創始者たち」 [著]ジミー・ソニ

 1990年代が終わろうとする頃、アメリカで創業されたペイパル――。
 天才的な投資家であるピーター・ティール、プログラミングの鬼才マックス・レヴチン、そして、今も世界を騒がせ続けるイーロン・マスクといった強烈な個性が合流した会社は、後にYouTubeやリンクトインなど名だたるサービスを生み出す起業家たちの出身地となった。
 では、「ペイパルマフィア」とも呼ばれる彼らの源流には、いったいどのような物語があったのか。本書はシリコンバレーの若者たちが始めたオンライン決済サービス会社が、イーベイに買収されるまでの激烈な4年間を描いたノンフィクションである。
 創業の頃、ペイパルのオフィスの壁には一日の利用者数を表す「世界制覇指数」なるものが、「メメント・モリ」(死を想〈おも〉え)の言葉とともに掲げられていたという。
 奇抜なアイデア、捨てるよりも早く消えていく資金、ハードワークと「問題解決」自体が生きる喜びであるかのような社員たちの狂気……。「おいおい、君のせいで屋根裏を引っかきまわす羽目になったぞ」というマスクの言葉から始まる本書を、数百人へのインタビューと膨大な資料を巧みに調理し、これほどまでに息詰まるストーリーとして仕立て上げる著者の筆力は圧倒的だ。
 勝つことに異様なほどの執着を見せ、自由を希求する。そのために山のような失敗を積み上げながら学び、巨大なリスクを取る彼らは反逆的で荒々しい。起業家精神とはこのようなものなのか、と思う。
 インターネットの個人向けサービスの黎明(れいめい)期、薄氷を踏む決断を重ねながらペイパルは膨らむように成長していく。「いま」よりも「未来」に関心を寄せる異端のイノベーターたち。彼らが激しく摩擦し熱を持って溶け合う様子は、あたかもテック業界の生命の起源を見ているかのようだった。
    ◇
Jimmy Soni 幼いころにインドから米国に移住。ハフィントンポスト勤務などを経て2014年に作家に転じた。