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「現代日本の消費分析」書評 家計に消費の平準化という特徴

評者: 神林龍 / 朝⽇新聞掲載:2023年08月12日
現代日本の消費分析 ライフサイクル理論の現在地 著者:宇南山 卓 出版社:慶應義塾大学出版会 ジャンル:経済

ISBN: 9784766428957
発売⽇: 2023/05/18
サイズ: 22cm/500p

「現代日本の消費分析」 [著]宇南山卓

 賃金に注目が集まる今日にあっても、ひとびとの生活を直接示すのはやはり消費だ。経済学創設とともに発展してきたこの分野で、国際的な貢献を重ねてきた著者が満を持して出版したのが本書である。消費は「水準」の高低が議論されがちだが、その「変化」をみると、世帯がどれだけ安定した将来設計のうえで生活できているかがわかる。本書は、定年退職金や年金など、ある程度予期できるまとまった収入を手にしたときの消費の反応を調べ、生活の安定性を検討した論考を中核に据える。そこで著者が得たのは、日本の家計は「生涯を通じた消費の平準化ができている」という結論だ。
 この結論は生活の評価だけではなく、経済政策の設計にも重要だ。消費を増やすには生涯所得を増やすしかなく、一時的な消費刺激策は、将来の増税で相殺されてしまい効果が期待できないからだ。本書は最新のデータ事情解説も備え、日本経済を考えるのであれば必須の一冊だ。