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「かまくらBAKE猫倶楽部」 幻想が見え隠れ、絶妙な読み味

講談社 836円

 舞台は「かまくら猫倶楽部」という、猫にまつわる雑貨店。鎌倉のどこかに化猫(ばけねこ)倶楽部という場所があって、そこに行けば、いなくなった猫に会えるのだという奇妙な噂(うわさ)をたよりに、似た名のこの店にたどりついた猫好きの客たち。その口から語られる「猫の不思議な話」が、百物語のように積み重ねられていく作品だ。

 毎回12ページほどで、どのエピソードもちょっとした経験談なので、聞き流したらどうということのない話ばかり。にもかかわらず、読み終えるとひとつひとつが心にいいようのない存在感とともに残る。ちょっとした怪談のような、どうでもいい笑い話のような、どちらともつかない、どちらでもあるような、その境を物語はゆったりと綱渡りしていく。手触りのある絵と、巧みな語り口に引き込まれて読み進むと、日常の中に潜んでいる幻想の世界がちらちらと見え隠れして、読む者の心をくすぐる。本当にそんな話があるんだろうか? 「まさか」と「ひょっとしたら」のはざまで揺り動かされる絶妙な読み味には、得がたい魅力がある。こんなバランス感覚の作品にはめったに出会えない。至芸という言葉を使いたくなるような、心地よく味わい深い読書体験をした。=朝日新聞2024年5月4日掲載