古典百名山

ライマン・フランク・ボーム「オズの魔法使い」 桜庭一樹が読む

2017年04月09日

ボーム(1856~1919)。米国の児童文学作家

■よりよい自分を願う旅

 どうしてあんなことを言ってしまったんだろう? 無神経な一言! ウァー、わたしってやつは!? わざと意地悪する人よりひどい。まったく、脳味噌(のうみそ)じゃなくて食べるほうの味噌でも入ってんじゃねぇのォォォ!
 という後悔で青くなり、眠れない夜がある。そんなとき、本棚から取りだして繰りかえしめくるのが、本書なのだ。
 少女ドロシーは、ある日、竜巻に巻き込まれて不思議な世界に飛ばされてしまう。偉大な魔法使いオズが願いを叶(かな)えてくれることを知り、「カンザスの家に帰してください」と頼むために旅を始めるが……。
 旅のお供は、藁(わら)のかかし、ブリキの木こり、弱虫ライオンの三人衆だ。彼らにも切実な願いがあった。かかしは「脳味噌(知性)がほしい」、木こりは「心臓(心)がほしい」、ライオンは「勇気がほしい」と。
 だが苦しい旅の末、なんと魔法使いオズはインチキだとわかり、誰の願いも叶わなかった。
 とはいえ、よく読むと……?
 序盤から、脳味噌がないはずのかかしのアイデアで危険な川を渡れたり、心臓がないはずの木こりが号泣したり、勇気がないはずのライオンがみんなを助けたりする。旅によってさらなる成長までする。
 この本を読むたび、さまざまな考えがよぎってよぎってならないのだが、いまの時点でのわたしの解釈は、こうである……。
 そもそもわたしたち人間とは不完全なもので、もし完全な存在なんてものがあるなら神さまだけだ。それでも、よりよい存在になりたいと願い、助けあって旅を続ける藁やブリキのガラクタの姿ときたら、まるで「人が生きること」そのものみたいじゃないか、と。
 そして、求めたときじつは変化している。祈ったときもう与えられている。そういう静かな寓話(ぐうわ)だと思えて、胸を打たれる。
 だから、わたしも、その……反省しつつ、旅を続けたいと思う……。

オズの魔法使い (角川文庫)

著者:ライマン・フランク・ボーム、柴田 元幸
出版社:角川書店(角川グループパブリッシング)

表紙画像

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