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みんなで読みたい怪物譚 メアリー・シェリー「フランケンシュタイン」

桜庭一樹が読む

 数ある古典の中で、最も「読書会向けの一冊」がこれ! これなんです! 一人で読むより皆で集まって話したほうが、十倍、いや二十倍も面白いの。
 時は一八一六年。著者メアリーは花も恥じらう一九歳。英国の思想家ゴドウィンの娘で、目下、ロマン派の詩人シェリーと駈(か)け落ち中。彼とともに詩人バイロン卿の別荘を訪ねた夜、「一人一篇(ぺん)、幽霊譚(たん)を書こうよ」というお遊びに参加した。これがきっかけで本書と、バイロン卿の主治医ポリドリによる『吸血鬼』が生まれたのだ。
 えー、いいなぁ。なんてドラマチックな一夜だろうか……。
 本書の主人公はフランケンシュタイン青年だ。幼い頃から科学への興味が強く、長じて「死体を集めて電流を通して復活させる」禁断の研究に没頭。ついに怪物を造ってしまう――!?
 どうしても映画版の怪物のイメージが強烈だけれど、原作小説のほうだって根強い人気がある。その理由はおそらく、シンプルな物語の中に多くの解釈の可能性を隠しているからだ。
 たとえば、人造人間の誕生は「産業技術の急速な発展を現している」とか、「いや、出産恐怖と産後のメランコリックの暗喩だろう」とか。自分を造った青年から嫌悪され、虐げられる怪物の存在は「当時の労働者階級の苦悩そのものだ」とか、「いやいや、父から勘当された作者自身の姿の投影だろう」とか。
もう無限の迷宮である。
 で……? わたしがどう読んだかというと……?
 フランケンシュタイン青年は母を病で亡くした。それが人生で初めての挫折だった。男の子にとって母を失うのは「創造主を失う」ことと等しいのだろうか? 悲嘆しつつ、創造主=母にならんとして怪物を産み落としたマザー・コンプレックスの神話……だと、思った。
 さてあなたの感想はどうだろう? 聞いてみたいなぁ。この手の本は誰かと一緒に読んだほうが面白いんだもの。=朝日新聞2017年4月23日掲載