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ジーン・セバーグ [著]ギャリー・マッギー

[評者]後藤正治(ノンフィクション作家)

[掲載]2011年04月03日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■柔らかくて、もろい心の持ち主

 ショートカットに乗った紳士帽。あぐらを組んでベッドに座り、指先からは紫煙が立ち上っている。なんともアンバランスな、それでいてチャーミングに映る美少女だった。ゴダール監督の「勝手にしやがれ」の一場面である。女優ジーン・セバーグといえばこの姿を連想する。評伝を手に取ったのも、ワンシーンが思い出されたからだった。
 米国中西部育ちの「田舎娘」が銀幕に憧れ、女優の階段を登っていく。当初はぱっとしなかったが「悲しみよこんにちは」のショートカットが流行となり、「勝手にしやがれ」がブレークして米仏を行き来する国際女優となる。
 富と名声を得た女優が、やがて作品にも男運にも恵まれず忘れ去られていく。孤独、飲酒、鬱(うつ)……という人生の歩みに特に意外性はない。特記すべきは、弱きものに思いを寄せる、柔らかくてもろい心の持ち主だったことだ。
 セバーグは人種差別撤廃運動組織への資金提供者となり、米連邦捜査局(FBI)がマークする。そのことが、後年、パリの路上の車の中で自殺者として発見されるに至る遠因ともなっている。
 彼女が銀幕で照り輝いていたのは1950年代から60年代。パリとハリウッドが夢誘う地であり、人種差別がむき出しにあり、リベラリストが当局の監視下に置かれた時代だった。
 海外の人物ノンフィクションの多くがそうであるように、主人公の生い立ちから終幕まで、時系列で人生を追っていく。そして、ともかく数多くの関係者の証言を盛り込む。やや退屈感を伴うが、てんこもりの洋食を食べたという満腹感は残る。
 ジーン・セバーグを、コケティッシュな美少女としてのみ記憶しておくのが良かったのか、それとも時代に翻弄(ほんろう)された悲劇的女優だったことを知って良かったのか。どちらと決めかねたままに最終ページを閉じた。
 評・後藤正治(ノンフィクション作家)
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 石崎一樹訳、水声社・3675円/Garry McGee 米国の作家、映像作家。セバーグのドキュメンタリーも予定。

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