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ウィキリークス―アサンジの戦争 [著]「ガーディアン」特命取材チーム/日本人が知らないウィキリークス [著]小林恭子ほか

[評者]辻篤子(本社論説委員)

[掲載]2011年04月10日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝 国際

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■伝統メディアとの緊張はらんだ共闘
 
 新たなジャーナリズムとたたえる声がある一方で、情報テロと厳しく非難される。これほど評価が分かれるものも珍しいだろう。
 流出した米政府の機密情報などを次々に公開し、にわかに注目を集めている内部告発サイト「ウィキリークス(WL)」である。
 『アサンジの戦争』は、英国のリベラル紙ガーディアンのチームが描く、創設者ジュリアン・アサンジの素顔だ。両者の関係は、同紙の記者が昨年6月、WLが米国の公電25万件を手に入れたとの記事を見て接触、共同作業を持ちかけたことに始まる。
 報道に当たっては、初めは米ニューヨーク・タイムズ紙、独シュピーゲル誌と共同で、後に仏西の2紙も加わった。アフガンとイラクの戦争に関する米軍の報告書に始まり、米国の公電公開へと進んだ過程が、生々しく描かれる。
 すべて公開されるべきだとするネットの信奉者と、彼が批判する伝統的メディア。ときに激しく反発しながら、互いを利用する、緊張をはらんだ稀有(けう)な協力関係だ。
 膨大な公電からニュースを探すのは結局、伝統的ジャーナリズムの仕事だった。情報をより分け、確認し、公益性を判断し、個人情報を削る。大量の情報を流出させるネット時代が、その力を再認識させたのだから面白い。
 公電の山から宝を探す記者たちの奮闘ぶりが興味深い。ありふれたキーワードでは文書を絞れない。試しに「バットマン」で検索すると2件、うち1件が外交官によるプーチン氏評だった。
 公電の公開を待ち望んでいたのはむしろ、言論の自由のない国々だった。チュニジアでは、体制の行き詰まりを報告した大使の公電が若者たちのあきらめを希望に変えた。ジャスミン革命はWL革命でもあった。
 メディアの世界でもWLの評価は分かれ、米国での見方は厳しいが、ガーディアン紙の編集主幹は「透明性と開放性という筋の通った目的を持つ点でWLは称賛すべきだと思う」と結んでいる。
 『日本人が知らない』は、WLをさらに広く、日本の立場からも考えるヒントを与えてくれる。ネットから政治学、哲学まで、さまざまな角度で論じられる。
 外務省OBの孫崎享氏は、公開された日本絡みの2通の公電を読み解きつつ、公表が前提になれば責任も伴うとして、基本的に好ましい流れとする。ジャーナリストの津田大介氏はWLショックを受けたマスメディアは検証機能がますます重要になると見る。
 WLの物語はまだまだ始まったばかりだ。今後、どう展開し、社会をどう変えていくのか。私たちにとって遠い問題でないことはいうまでもない。
 〈評〉辻篤子(本社論説委員)
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 『ウィキリークス〜』月沢李歌子・島田楓子訳、講談社・1890円△『日本人が〜』洋泉社新書y・798円/他の著者は白井聡・塚越健司・津田大介・八田真行・浜野喬士・孫崎享。

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