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末裔 [著]絲山秋子

[評者]

[掲載]2011年04月10日

[ジャンル]文芸

表紙画像

 突然、家の鍵穴が消えてなくなり、世田谷の自宅にもどれなくなった定年間近の区役所職員、富井省三。妻を亡くし、2人の子供も成人して独り暮らし。頼る人もなく、街をふらふらするうちに、占師に泊まる場所を提供されたり、鎌倉の伯父の家に滞在中にしゃべる犬が出てきたり、不思議なことが次々と起こる。「なんでここにいるんだ」「俺は何をしているんだ」。家庭を顧みることのなかった省三は家族がバラバラになった現実を思い、やがて自分のルーツをたどるドライブに出る。中年男の孤独な胸のうちがどこかユーモラスに描かれる。根無し草になったような省三の日々は、つながりを失った社会で暮らす読み手の心の中で乱反射する。(講談社・1680円)

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