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ブラジルの流儀 [編著]和田昌親

[評者]後藤正治(ノンフィクション作家)

[掲載]2011年04月10日

[ジャンル]経済 新書 国際

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■資源とハイテクで躍進の元気社会

 経済破綻(はたん)のどん底にあえいでいた時期、「もうアマゾンを売るしかない」とまでいわれたブラジルがいま元気だ。高金利に引き寄せられて世界のカネが流入し、サッカーのワールドカップやリオ五輪の開催も決めた。
 本書はサンパウロ駐在も体験した元日経記者の手になるものであるが、経済分析よりも、ブラジル社会の有り様や暮らし向きにウエートを置いて元気の源を探っている。
 バスに乗ったらすぐ料金を払うべし、降りるときに上がっているから——。そんな超インフレが続いてきたが、1994年の新通貨レアル発行で沈静化。貧困からの脱却を掲げるルラ大統領による「家族手当」で中間層が拡大し、成長の基盤が生まれていく。
 もともとブラジルは豊かな国だった。鉱物、水力、農産物、肉類は余るほどある。最新技術で深海油田を採掘し、いちはやくバイオエタノール車を手がけ、中小型飛行機の輸出国でもある。資源にプラスしてハイテク。「21世紀の主役」ともいわれる。
 著者の目は、躍進を支える文化に向けられる。歴史上、大きな戦争はなく、人種差別の少ない混血社会を形成してきた。そしてサンバやカーニバルに象徴される「楽天」かつ「鷹揚(おうよう)」なるラテン気質。
 コインの裏というべきか、近年、不況と停滞が常態ともなった日本社会。加えて未曽有の大震災。自信喪失気味のわれわれにはなんだかまぶしい国にも映ってくる。
 もとよりブラジル社会にも問題はある。最たるものは治安の悪さだ。東京と比較すればサンパウロの殺人発生件数は約8倍、一方、自殺者の率でいえばブラジルは日本のおよそ5分の1であるとか。
 成熟した停滞社会にも躍進する元気社会にも亀裂は走る。どの国、どの社会にも問題はいろいろとあるが、やがて歳月はめぐり、日はまた昇る。そう思いたい。ちょっぴり元気をくれた一冊。
 評・後藤正治(ノンフィクション作家)
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 中公新書・861円/わだ・まさみ 47年生まれ。日経HR社の社長。著書に『逆さまの地球儀 複眼思考の旅』など。

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