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生きるってなんやろか? [著]石黒浩・鷲田清一

[評者]辻篤子(本社論説委員)

[掲載]2011年04月17日

[ジャンル]人文

表紙画像

■心は見えへんっていうけれど

 「心っていうのは、みんな見えへん見えへんっていうけど、心は見えるというところから出発したほうがいいんやないか、と思うの」
 哲学者の鷲田が語っている。これはまるで、震災以来すっかりおなじみになったテレビCM、「心は見えないけれど……」の関西弁バージョンではないか。
 そこから浮かんでくる現在の心象風景を思えば、「若者のためのクリティカル『人生』シンキング」をうたう本書はおそらく、生きることを見つめ直そうとする、今の私たちのためのものでもある、ということに気づかされる。
 ファッションから介護までを論じる「ちょっとヘン」な哲学者が対談するのは、「双子もどき」を意味する「ジェミノイド」という造語で呼ぶ自分のそっくりさんを作っている、自称「マッド」なロボット研究者の石黒である。
 それぞれの業界で「はみ出しっ子」という2人が口ぶりも軽やかに、若者への人生指南の形をとりながら、実は、人とは何か、生きるとはどういうことか、心とは、と、いわば学問の中心課題を真正面から語っている。
 冒頭の言葉に続く、石黒の議論はこうだ。世の中に自分一人しかいなければ、おそらく感情も心もない。人が人とかかわる中で心は表出してくる。とすれば、常に見えていると考える方が自然だろう。
 ジェミノイドは、人のような皮膚や目を持ち、動き、話をする。オーストリアのカフェに置いて遠隔操作したところ、ロボットと気づいた人は半分だったという。
 そんなロボットが、人って何よ、どこが違うのよ、と迫ってくる。他者との関係性において人に心があるなら、ワタシにだって心はあるのよ。今にもいい出しそうだ。
 ロボット研究の最前線と哲学がぶつかって、人なる存在が揺らぐ。もっともっと揺らげ、揺さぶれ。簡単な答えはない。刺激的な1冊だ。
 評・辻篤子(本社論説委員)
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 毎日新聞社・1260円/いしぐろ・ひろし 63年生まれ。大阪大教授 わしだ・きよかず 49年生まれ。大阪大総長。

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