書評・最新書評

アジアに浸る/トモスイ [著]高樹のぶ子

[評者]楊逸(作家)

[掲載]2011年04月24日

[ジャンル]文芸 国際

表紙画像

■写真鮮やか、風土人情生き生き

 マニラで死者の埋葬費用を賭博で稼ぐのを目にし、モンゴル大草原の狼(おおかみ)の遠吠(とおぼ)えを聞きながら眠り、バンコクの病院で性転換手術に立ち会い、台湾の海に溺れて死の恐怖を覚えた——まさに命がけとも言える数々の体験である。
 SIA(Soaked in Asia)とは九州大学アジア総合政策センターの主宰により、著者がアジア10カ国を5年の歳月をかけて訪ね歩き、文学を通して日本に紹介するというプロジェクトだ。その成果として『アジアに浸る』のほか、各国を代表する作家の作品を集めた『天国の風』(新潮社)と、表題作が川端康成賞受賞の短編集『トモスイ』も順次刊行。
 『アジア〜』は鮮やかな写真とともに各地の風土人情を生き生きと映しだし、訪問した作家たちの印象を併せ記している上、ここは『トモスイ』のヒントになったのでは、と読みながら想像してしまう箇所も多々あった。
 導かれるままに、ベトナムやフィリピン、タイ、インドネシアなどの小説を初めて読んだ。バンコクのオカマショーにせよ、バリ島の木彫り民芸品にせよ、これまで観光文化としてしか認識していなかった。改めて文学という形で触れ、そこに秘められた深い悲喜の情に衝撃を受けた。特にバリ島の盲目彫刻師を扱った一編に、美とは何なのかについて考えさせられた。
 豊かな環境に恵まれ、日々新しさを追求する先進国の文学に比べ、いまだ貧富の差が激しく、様々な問題が潜むアジアでは、個人と社会との関係——周りを頼りにしつつも、弱肉強食の中で個々が懸命に生きる——がいまだにメーンテーマであるようだ。
 「どれもワンパターンである幸福な家庭に比べ、不幸な家庭には不幸なりに其々(それぞれ)のオリジナリティーがある」とトルストイが言う。これを捩(もじ)って、アジア文学も、発展途中であるがゆえ多様多彩で個性に満ちているといえるだろう。
 評・楊逸(作家)
     *
 『アジア〜』は文芸春秋・2000円、『トモスイ』は新潮社・1470円/たかぎ・のぶこ 46年生まれ。

関連記事

ページトップへ戻る