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「バタをひとさじ、玉子を3コ」書評 食べ生きる、楽しみ方の極意

評者: 松永美穂 / 朝⽇新聞掲載:2011年04月24日
バタをひとさじ、玉子を3コ 著者:石井 好子 出版社:河出書房新社 ジャンル:エッセイ・自伝・ノンフィクション

ISBN: 9784309020273
発売⽇:
サイズ: 19cm/249p

バタをひとさじ、玉子を3コ [著]石井好子

 おなかが空(す)いているときにこの本を読むと、ちょっと危険だ。猛烈に何か食べたくなってくる。それも、冷凍食品をチンしたものなんかではなく、手作りの、出来たてほやほやを。行間から匂いも漂ってくるようで、最近で一番、嗅覚(きゅうかく)を刺激された本だ。
 著者は歌手であり、オムレツのエッセーで話題になった文筆家でもあり、料理研究家で、レストランのオーナーでもあった。本書のタイトルもオムレツを連想させる。手軽だけれど工夫の利いた料理のレシピ、パリ時代に出会った料理の思い出、プロの料理人の仕事場からの報告……。食べものにまつわるさまざまなエッセーが収められている。
 食べるのが好きなだけでなく、食べものに愛情を注ぐ人だったのだな、と思う。料理の過程に、無関心ではいられない。盛りつけもなおざりにしない。人に食べさせるのも大好き。食卓での会話も当然弾む。食は即、生きることにつながるが、本書にはその楽しみ方の極意が隠されている。
 松永美穂(早稲田大学教授)
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 河出書房新社・1470円