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「ユニクロ帝国の光と影」書評 意図を裏切り、見事な企業分析

評者: 山形浩生 / 朝⽇新聞掲載:2011年05月01日
ユニクロ帝国の光と影 著者:横田 増生 出版社:文藝春秋 ジャンル:経営・ビジネス

ISBN: 9784163737201
発売⽇:
サイズ: 20cm/308p

ユニクロ帝国の光と影 [著]横田増生

 本書は奇妙な本だ。著者の執筆意図を完全に裏切る形で、見事な企業分析になってしまっているのだから。
 ユニクロは短期間で国民的ブランドにのしあがった。著者の主な意図は、その急成長の裏にある影の描出だ。では、その恐るべき暗部とは?
 なんとユニクロは、中国の工場に徹底した品質改善とコスト低下を要求して泣かせているぞ!
 まあ、なんてひどい業者いじめ……かな? その工場は見返りに、ユニクロからの大量発注の恩恵を得ているのに。顧客の無理難題に悩むのは、ぼくの勤務先を含む全企業の宿命だ。むしろこれは、優れた品質コスト管理では?
 あとはなになに、店舗同士で競争させ、抜き打ち査察で監督するから従業員は気が休まらない! 光の影に残酷な労働者いじめ? いや立派な店舗労務管理でしょ。
 こんな具合。著者の言うユニクロの影はどれも、ぼくには経営の基本に忠実な見事な光に思えてしまう。これは著者の前著にもあった傾向だ。
 また欧州アパレルの雄ザラとの対比による非正規雇用過多の指摘は、日欧の労働法制度の差もあるのでは? それに企業の最適解は一つじゃない。さらにワンマン経営すぎて後継者不在という批判は、経営者像としては示唆的だしゴシップ的には楽しいが、最終的にはご当人の勝手だ。
 つまりユニクロの闇をえぐるはずの本書は、著者の価値観を共有しない人には、ひねりすぎた称賛本にすら見えてしまう。批判的な視点ゆえに結論以外の記述は信用でき、取材も深い。結果として同社の戦略が鮮明に出た好著になったのは、皮肉ながらもありがたい収穫だ。
 ジューシーな醜聞を期待した人は失望必至。著者は不本意だろうが、ユニクロの長所を真摯(しんし)に学びたい人(特に新入社員!)こそ手にとってほしい。嫌みぬきで勉強になります。
 評・山形浩生(評論家)
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 文芸春秋・1500円/よこた・ますお 65年生まれ。著書に『潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影』。

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