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ドイツを焼いた戦略爆撃 1940——1945 [著]イェルク・フリードリヒ

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2011年05月01日

[ジャンル]歴史

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■憎悪の連鎖、皆殺し戦争の実態

 本書を読み抜くには、相応の想像力と洞察力が必要である。表層では、第2次大戦下(とくに戦争末期)にアメリカ、イギリスによるドイツ各都市への無差別爆撃がいかに苛酷(かこく)であったかが多面的に語られている。ナチス犯罪追及の作品が多い著者は、日本の読者に向けても、「ドイツの、ロシアの、日本の、英米の軍隊は皆、主として民間人を、しかも大量に死亡させた」と問い、しかし「使用された武器」によってそれが許されたり、許されなかったりすることの矛盾を訴えている。
 本文中では、火災戦争、爆撃戦争といった語がかなりの頻度で使われる。皆殺し戦争の真実はどこにあるか、それを「兵器」「戦略」「防衛」などの見出しのもと徹底した調査と分析とで、私たちの前に提示する。ナポレオンの戦争や第1次大戦の流れも押さえ、歴史上の奥行きをもたせる。爆撃する側の命令者、それを実行する乗員たち、その爆撃を受けるドイツ側の指導者と国民。そこには憎悪の連鎖がある。英米両軍の飛行機は37万トンの弾薬を投下し、イギリス爆撃機軍団は7万2880回出撃しているのだが、たとえば1944年10月のハリケーン作戦によるライン東岸地域のデュースブルクのように降伏か抹殺かの象徴とされる爆撃、1945年2月のドレスデン空襲では一夜で4万人が死亡など、とにかく死者をふやすことを目的とした都市爆撃が続けられた。
 こうした一連の爆撃で60万人余の死者が出る。この表層の下にひそんでいる現代に通じるテーマは何か、想像力が必要とされる所以(ゆえん)である。
 ドイツ各都市につくられたブンカー(避難所)を利用できるか否かの人種・人間差別、捕虜になった乗員へのリンチ、死体の氾濫(はんらん)する都市、イギリス国民を全滅させたいとの心理、犠牲を自嘲するナチ機関紙。数多(あまた)の事実に接して、人間としての感情と理性による洞察力が試される。
 評・保阪正康(ノンフィクション作家)
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 香月恵里訳、6930円/Jorg Friedrich 44年生まれ。ドイツ人歴史家、ジャーナリスト。

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