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ハウス・オブ・ヤマナカ―東洋の至宝を欧米に売った美術商 [著]朽木ゆり子

[評者]田中貴子(甲南大学教授)

[掲載]2011年05月01日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能 国際

表紙画像

■美術品の散逸・破壊回避の一面も

 なぜ、これが、アメリカに? ニューヨークで、ボストンで、一級品の日本美術を目にしてこうつぶやく人は多いかもしれない。しかし、日本びいきの外国人が買ったのね、と納得してはいけない。その外国人は、どんな手段で日本美術を買い入れたのだろうか。そこで浮かび上がってくるのが「山中商会」の名前である。
 今はアメリカでも日本でもほぼ忘れられてしまっているが、この山中商会こそ、20世紀初頭から第2次世界大戦まで欧米に店を構え、海外の蒐集(しゅうしゅう)家に東洋美術を販売していた超有名店なのである。ジャポニズムはやや下火になったものの、アメリカではまだまだ東洋美術への関心は高く、大富豪と呼ばれる人々の蒐集熱も高まっていた。彼らの信頼を得た山中商会は、日本や中国の書画骨董(こっとう)を積極的に販売したのである。
 こうした商人の行為は、しばしば「名品の海外流出」といった否定的な評価をされがちである。だが、山中商会が商売を通じて海外に東洋美術を紹介した功績は大きく、現在では商品のほとんどが美術館に寄贈されている点を考慮すれば、美術品の散逸や破壊を回避するという保護活動の一翼を担ったとも評価できるだろう。
 こうした山中商会の歴史を、各地に残る資料を精査し解読するという地道な作業で掘り起こした本書は、そうした実証的方法により、一美術商の盛衰にとどまらず、アメリカ美術界の歴史を記述することに成功している。興味深いのは、たとえば大恐慌や戦争など、アメリカが直面した現実と山中商会の関わりである。美術品とはいえ、政情や経済状態の変動と無関係ではあり得ない。特に、第2次世界大戦で山中商会が解体されてゆくさまは、「敵国」における日本企業の実態を如実に映し出していて、読み応え十分である。読了後に美術館を訪ねてみよう。きっと新たな発見があるはずだ。
 評・田中貴子(甲南大学教授・日本文学)
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 新潮社・2100円/くちき・ゆりこ 『マティーニを探偵する』『盗まれたフェルメール』など。

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