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志賀直哉の〈家庭〉 女中・不良・主婦 [著]古川裕佳

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2011年05月08日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■「女中」がもたらすサスペンス

 志賀直哉の中期の作品を通して、「私小説」作家の家族観や家庭観を検証するというのが本書の狙いだ。中期とは34歳(大正6年)から54歳(昭和12年)までの、もっとも執筆活動の旺盛な時期である。
 著者の意図とは異なるだろうが、読後感は2点に絞られる。その1は、大正期都市ブルジョアジーの家族論のもつ危うさ、その2は「女中」という第三者により家庭空間がいかに「サスペンスにさらされるか」というテーマの重さである。むろん著者はこの2点とは別の近代社会の女中や主婦という存在が、志賀作品の中でどのような関係性をもっているか、さらに男のエゴを「暗夜行路」「佐々木の場合」「邦子」などを用いて細心に説明している。なかんずく「佐々木の場合」の軍人と女中という職掌と愛情の分析や「邦子」の自殺する主婦の階層解釈などには新しい視点と広角な描写がある。
 それにしてもこの書の背景から浮かぶ有産階級の性の問題に複雑な思いがしてくる。
 保阪正康(評論家)
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 森話社・3360円

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