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宇宙誕生―原初の光を探して [著]マーカス・チャウン

[評者]辻篤子(本社論説委員)

[掲載]2011年05月22日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■空の「化石」、謎解きそしてまた謎

 太古の生物の姿を伝えてくれる化石があるように、太古の宇宙の化石もある。
 「宇宙背景放射」と呼ばれる、セ氏マイナス270度のかすかな電波である。
 ビッグバンから38万年、超高圧超高温の火の玉宇宙が冷え始めたときに解き放たれた光が宇宙の膨張とともに飛び続け、今、電波となって見えているのだ。背景の名の通り、私たちの周りの宇宙空間を満たしている。
 本書は、火の玉宇宙の名残の「化石」を追ってきた科学者たちの半世紀余りにわたるドラマを生き生きとつづる。
 発見は偶然だった。米国の2人の若い天文学者が1964年、空のあらゆる方向からやってくる奇妙な電波に気づいた。雑音と思い、ハトのフンを犯人と疑ったり1年も試行錯誤したあげく、数十キロ先で別のチームが懸命に探していた背景放射だとわかった。
 2人はタッチの差で、20世紀最大ともいわれる科学的な発見を成し遂げたのだ。
 次いで米国の人工衛星COBE(コービー)が92年、宇宙の複雑な構造を作るタネと見られる背景放射のわずかなでこぼこ、つまり「宇宙のさざ波」を見つけた。これまた前世紀最大の発見とたたえられた。
 だが、最大のドラマは、これらの成果がそれぞれノーベル賞に輝く飛躍の果てに、私たちは宇宙のことをほとんど知らないということがわかったことかもしれない。
 COBEの後継衛星WMAPによる観測で2003年、現在のような宇宙は、原子など私たちが知っている物質だけではできない、つまり、宇宙の96%は正体不明の暗黒物質や暗黒エネルギーだということがはっきりしたのだ。
 本書は、93年の初版にこうした経緯が加筆された。
 そして今、暗黒の正体探しという新しい挑戦が始まった。宇宙のなぞがどう解き明かされていくのか。第一幕を知れば、第二幕の楽しみが増してくるはずだ。
 評・辻篤子(本社論説委員)
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 水谷淳訳、筑摩選書・1680円/Marcus Chown 60年生まれ。英国のサイエンスライター。

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