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バービーと私―着せ替えドレスを作り続けた半生記 [著]宮塚文子

[評者]松永美穂(早稲田大学教授・ドイツ文学)

[掲載]2011年05月29日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■モノ作りを支えた猛烈な仕事

 子どものころ、バービー人形といえば舶来モノの高級ファッション人形というイメージだった。つんとすました顔立ちに、見事な八頭身。別世界の人、というか人形だった。そんなバービーが、実は最初の10年あまり日本で生産されていたなんて!
 本書の著者は、極秘裏の社命を受け、帝国ホテルに借り切られた部屋に1年間通い詰めて、バービーのドレスや小物の試作を続けた人である。縫製技術の高さと賃金の安さに目をつけて、アメリカの会社がファッション人形の生産を日本の会社に持ちかけたのだった。「手に職を」という母の勧めに従って縫製を学んだ著者は、人間ではなく人形の服を作る仕事にとまどいながらも、会社の上司やアメリカから派遣された人々の人柄に魅せられ、全力で課題に取り組んでいく。
 9時から5時まで帝国ホテルで仕事し、その後会社に戻って作品を改良し、終電で帰宅後も仕事を続け…と、その勤務ぶりは猛烈である。しかもそれが「楽しくて仕方なかった」とある。品質に関して絶対に妥協しないモノ作りの姿勢がアメリカとの契約につながり、何百万体というバービー人形とドレス・小物の生産に結びついて、多くの人に職を与え、日本に外貨をもたらすことになった。高度成長期の日本の製造業を支えた人々の、活力と責任感と職人気質に驚嘆させられた。
 バービー誕生秘話としてだけでなく、女性の一代記として読んでもおもしろい。日本にはまだ封建的な男性社員が多かったが、アメリカの社員たちは対等なパートナーとして自分を遇してくれ、そのことから人を動かす術を学んだ、という著者。バービー生産の拠点も繊維工場の多くもいまでは他のアジア諸国に移ってしまったのは皮肉な趨勢(すうせい)だが、働く意欲に関して、この本には時代を超えたたくさんのヒントが隠されていると思う。
 評・松永美穂(早稲田大学教授・ドイツ文学)
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 亜紀書房・1680円/みやつか・ふみこ 32年生まれ。57年国際貿易に入社、退社までドレス担当主任。

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