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ダンゴムシに心はあるのか―新しい心の科学 [著]森山徹

[評者]福岡伸一(青山学院大学教授・生物学)

[掲載]2011年06月05日

[ジャンル]科学・生物 新書

表紙画像

■愉快な実験で示す斬新な定義

 ダンゴムシ、見たことありますよね。ムシと呼ばれつつも、昆虫ではなくエビやカニの仲間。その証拠にゆでると赤くなる(試さないでね)。
 大胆な本である。まず心とは何かずばりと定義する。そしてすぐに結論。ダンゴムシにも心はある。で、おもむろに数々の愉快な実験の記録。この構成が、編集者の入れ知恵ではなく、著者自らの企てだとすればこの人はなかなかのストーリーテラーだ。
 迷路に入れるとちゃんと出口を探り当てる。袋小路に追い込むと突然、壁を登りだした。水路で囲むと水がきらいなのにダイビングして向こう岸にたどりつくものが現れる。
 ダーウィンを思い出す。彼は生涯にわたって取り組んでいた課題があった。ミミズの研究。いろいろな「いじわる」を仕掛け、それに対してどのように行動するか根気よく調べた。ミミズは巧みにいじわるを回避した。ダーウィンは、ミミズも「考えている」と結論づけた。
 私たちは普通、下等な生き物には心なんてないと思っている。彼らの行動様式はいずれも刺激に対する機械的な出力であり、そのパタンは生得的に決定されていると説明する。でもこれはどうやら人間の勝手な思い込みである。
 ダンゴムシの突飛(とっぴ)な行動こそが心の存在を示す証拠だと著者はいう。なぜなら彼によれば、心とは、行為を引き起こす仕組みではなく、むしろ不必要な行為を抑制する「隠れた活動部位」だから。まさに、顔で笑って心で泣いてのごとく。ゆえに定型的な入力—出力モデルではない状況を与えたとき、心の作用を観察しうるのだと。斬新な定義に胸騒ぎを覚えた。ひょっとするとこの「心の科学」は大化けするかもしれない。
 巨大科学の行き着く先を目の当たりにした今日、スモール・サイエンスとでも呼ぶべき個性的な科学の萌芽(ほうが)に希望をともす好著である。
 評・福岡伸一(青山学院大学教授・生物学)
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 PHPサイエンス・ワールド新書・840円/もりやま・とおる 69年生まれ。信州大学助教(比較認知科学)。

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