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ウェブ×ソーシャル×アメリカ―〈全球時代〉の構想力 [著]池田純一

[評者]斎藤環(精神科医)

[掲載]2011年06月05日

[ジャンル]IT・コンピューター 新書

表紙画像

■ウェブ思想の根底なす問いとは

 ウェブは透明で中立な媒体だ。そう信じている人が本書を読めば、ネット上の景色は一変するだろう。ウェブは中立どころではない。Google、Apple、Facebook、Twitter……、普段何気なく利用しているサービス全てに、創設者の特異な思想や政治性が埋め込まれているのだ。
 例えばAppleの創始者にしてCEOのスティーブ・ジョブズの「ハングリーであれ、愚かであれ」という言葉と、Googleの創設者セルゲイ・ブリンによる「邪悪になるな」という社是とでは、基本となる構想が全く異なる。
 ハッカー文化とカウンターカルチャー(「意識の拡大」!)との関係はよく知られているが、ウェブの思想的背景はそれだけではない。
 著者によれば、最新のソーシャル・ネットワークであるFacebookの創設者、マーク・ザッカーバーグの構想は、なんとウェルギリウスの『アエネーイス』に端を発しているという。そこに描かれた「永遠のローマ」という単線的な歴史観こそが、Facebookの成長モデルなのだ。
 このほかにも、リバタリアニズム、コミュニティ志向、スピリチュアリティ、独立独歩といったアメリカの文化的伝統が、ウェブの構想に反映されていく過程がきわめて説得的に展開される。
 こうした視点からみるとき、人間を情報入出力の結節点(ノード)として扱うGoogleに対抗して、人間の交流関係を重視するFacebookの「人間賛歌」が急速に勢力を拡大していくさまは、サイバー空間での思想対決をみるようで、実にスリリングだ。
 著者によればIT技術開発の全体性を担保したのは「宇宙開発」という目標だった。確かに「全球」という視座からウェブを眺めれば、基本的構想の違いが見て取りやすくなる。そこで繰り返し問われる「人間とは何か」という問いこそが、常にウェブ思想の根底をなしてきたのだろう。
 評・斎藤環(精神科医)
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 講談社現代新書・840円/いけだ・じゅんいち 65年生まれ。コンサルタント。『テクノ図解 デジタル放送』

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