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ウォール・ストリート・ジャーナル 陥落の内幕 [著]サラ・エリソン

[評者]辻篤子(本社論説委員)

[掲載]2011年06月19日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■経営難で亀裂、メディア王降臨

 ウォールストリート・ジャーナルは、かつては人物の似顔絵が添えられる程度で写真もなく、じっくり読ませる長文の分析記事を特徴とする世界的な経済紙だった。一般紙をにぎわす事件や事故はごく短く紹介するだけだ。
 ところが今は、カラー写真も鮮やかに、普通のニュースが1面を飾る。
 本書は、メディア王ルパート・マードック氏によって親会社であるダウ・ジョーンズ社が2007年に買収され、同紙が普通の新聞になっていく過程を、同紙の記者としてつぶさに取材した著者が退職後にまとめた。
 同社は105年にわたり、「不干渉」の立場を貫いたオーナー一族によって守られてきた。しかし、新聞業界の苦境がもたらした経営難が一族の間の亀裂を広げ、マードック氏が提示した50億ドルという破格の条件に応じた。
 そこに至るまでの駆け引きが生々しい。
 同時に、ジャーナリズムの行方について深く考えさせずにはおかない。
 買収前の編集方針は、ネット時代だからこそ、よそでは読めない分析報道に力を入れ、紙面の8割を割く、というものだった。
 だが、同氏のメディアにおける成功の唯一の指標は視聴者数であり、そこにネット時代の生き残りをかける。読者の関心を呼ぶニュースを並べ、記事には簡潔さを求めた。同紙の名物だった1面トップの「リーダー」と呼ばれる長文記事は姿を消した。
 これまでのところ、部数はやや減っているものの、買収以前に始まった有料のネット版が増え、09年には合計で全米1位の新聞になった。
 一方で、常連だったピュリツアー賞を取るような記事はいらないと幹部が公言し、実際遠ざかっている。
 メディアをめぐる厳しい環境の中で、社会の必要をどう満たすか。投げかけられる課題はずしりと重い。
 評・辻篤子(本社論説委員)
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 土方奈美訳、プレジデント社・2100円/Sarah Ellison 元ウォールストリート・ジャーナル記者。

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