書評・最新書評

思想は裁けるか―弁護士・海野普吉伝 [著]入江曜子

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2011年06月26日

[ジャンル]人文

表紙画像


■国家の法を個人の側から照射

 ファシズム体制下の弁護士には、重い踏み絵がある。国家と個人が対峙(たいじ)したとき、個人の側に立ち、その人権を守れるか。海野普吉は1914年に弁護士としてスタート、68年に病没するまでの54年間、人権を守る範を示した。
 本書はこの弁護士の人生を一歩ずつ歩を進めながら、等身大に描こうと試みた評伝である。少年期の家庭環境から青年期の煩悶(はんもん)、生涯を決定した桜井忠温の『肉弾』の読み方、弁護士になってからの幾多の事件とのかかわり、河合栄治郎事件や尾崎行雄不敬事件、横浜事件での弁論から、治安維持法下の自白偏重主義への徹底批判。戦後は松川事件、砂川事件を担いつつ、「人権のためには自腹を切る」生き方を貫く。
 東京裁判弁護団長の打診は断る。「ファシストたちの弁護をできるか」の言には、人生が凝縮されている。憲法38条(拷問による自白強要の禁止など)の死文化こそ次代への遺言という。国家の法を個人の側から照射した貴重な法曹人である。
 評・保阪正康(評論家)
     *
 筑摩選書・1785円

関連記事

ページトップへ戻る