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ブギの女王・笠置シヅ子―心ズキズキワクワクああしんど [著]砂古口早苗

[評者]横尾忠則(美術家)

[掲載]2010年12月12日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■自由と平和と解放の象徴だった
 
 廃虚と化した焼け跡風景の中に、まるでCGによるSFパニック映画の一シーンのように大阪城だけがポツンと取り残されていた。終戦後、母に連れられて鶴橋の闇市に米を売りに行った時、聞こえてきた歌は竹山逸郎の「異国の丘」でも並木路子の「リンゴの唄」でもなく笠置シヅ子の「東京ブギウギ」だった。
 「私が書かなきゃ誰が書く」と言って書いたのが笠置シヅ子と同郷の香川県の人。笠置が読んだら、わてほんまによーいわんわ、と欣喜雀躍(きんきじゃくやく)間違いなし。彼女へのおべんちゃらばかりではなく、彼女の心の扉をこじ開けて不透明な闇の部分にも分け入る。
 例えば彼女の持ち歌を歌って彼女の廻(まわ)りをハエのように飛びかう子供の美空ひばりにイケズをしたとかしないとかはよう知らんけど著者は笠置の肩を持つ。また古川ロッパの足を引っ張るような発言など人気者にはスキャンダルがつきものだ。
 もっと面白いのはあの三島由紀夫が笠置シヅ子に「天皇陛下みたいな憧れの象徴」と最大級の賛辞を送ったことだ。それを面と向かって言われた彼女はほんまにびっくりしはったやろな。彼女を天照大神(あまてらすおおみかみ)とかアメノウズメノ命(みこと)と言うならともかく、天皇陛下でっせ。
 子供の頃の僕なんかは昨日までの軍国主義を彼女がハイヒールで蹴飛ばしてくれたことでマッカーサーの「アメリカさん」にぞっこんやった。GHQの占領下で暴れまくるブギの女王こそ自由と平和と解放の象徴だった。何しろ黒澤明が彼女の歌を作詞し、映画「酔いどれ天使」で歌わせているほどだ。
 笠置シヅ子のファンには時代を代表する錚々(そうそう)たるインテリが名を連ねている。彼女の生き様は芸人というより芸術家の資質に近い。三島由紀夫は明治以後の三人の女傑——与謝野晶子、三浦環、岡本かの子に笠置シヅ子を加えた。「秩序のないところには芸術も美もない」と、ただ奔放に歌って踊っているのではないと笠置を評価。ビートルズを認めようとしなかった三島だが笠置シヅ子を芸術家の一人として認めた。大賛成。
 評・横尾忠則(美術家)
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 現代書館・2100円/さこぐち・さなえ 49年生まれ。ノンフィクションライター。

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