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「お笑い」日本語革命 [著]松本修 

[評者]四ノ原恒憲(朝日新聞記者)

[掲載]2010年12月05日

[ジャンル]人文 社会

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■文化を支える言葉の「旅」追って
 
 タイトルに「お笑い」の文字があるから、ふざけた本と思ってはいけない。何せ、以前自らの番組を使い、全国の「アホ」「バカ」という呼称の散らばりを調べ、柳田国男が「蝸牛(かぎゅう)考」で提唱した、言葉は昔、文化の中心である京都から地方へ放射状に広まっていったという仮説を裏付けた名作『全国アホ・バカ分布考』の著者なのだから。
 今回、とりあげられた言葉や言い回しは、近年一般的な言葉となった「マジ」「——、みたいな。」「キレる」「おかん」など。これらは、1970年代以降のある時期から、若者や子どもの口の端にのぼり、一般会話はもちろん、新聞、テレビで頻繁に登場するようになる。
 そのきっかけは、何なのか。映像、文献、インタビューなどを駆使した調査で、当時、テレビやラジオで大活躍した「お笑い」タレントが、張本人だと断定される。それは、誰か。読んでのお楽しみなので、名前は挙げない。が、彼らの力で、芸人や業界で一部の人しか使わなかった楽屋言葉や方言などが、電波にのって、一瞬で全国に広がり一挙に一般化した。
 ここまででも十分面白いが、本書の真骨頂は、その奥にある。調査を進めるうち、言葉の初出の多くは、明治、江戸にもさかのぼることがわかる。ある時期、盛んに使われた言葉が、時代の変化に追いやられ、消えかけるも、その言葉の語感や意味合いをいとおしむ一部の閉鎖社会で生き残り、時宜を得て復活し、日本語を変えていく。
 そんな、言葉の「旅」が明かされる時、ある時期「お笑い」がもった言葉に対する影響力と共に、文化を支える言葉が生きもののように持つ力と命を今さらながら思い知らされる。と共に、例えば幕末に生まれ、一時は消えかけた「おかん」に込められた語感、「気取らず、たくましく、温かい母」への愛ゆえ、使い続けた大阪の下町の人々の思いも、またいじらしい。
 ところで、「おじん」「おばん」という短縮形の呼称の原語が、関西、関東では違うものが想定されているという。興味ありませんか。
 評・四ノ原恒憲(本社編集委員)
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 新潮社・1470円/まつもと・おさむ 49年生まれ。朝日放送「探偵!ナイトスクープ」プロデューサー。

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