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ヨーロッパの形―螺旋の文化史 [著]篠田知和基 

[評者]横尾忠則(美術家)

[掲載]2010年11月28日

[ジャンル]歴史 アート・ファッション・芸能 国際

表紙画像

■「ヘンテコリン」の謎解けた

 ジョルジュ・デ・キリコが形而上(けいじじょう)絵画の時代を終えて、晩年近くに新形而上絵画を確立するが、この絵画作品に頻繁に登場するヘンテコリンなオブジェがある。巨大なS字形にねじれたオブジェで、その両先端がペロペロ飴(あめ)みたいに内側に渦を巻いている。そんな形象が建物に寄りかかっていたり、画面の両サイドから門柱のように出っぱっていたりする謎の造形物だ。
 ところがローマでキリコの家を訪ねた時、その謎が解けた。そのヘンテコリンな原型はバルコニーの鉄の柵(さく)の装飾の一部だったのである。実はこの螺旋(らせん)とも渦巻きともとれる唐草模様に似た形こそヨーロッパの精神の核をなす象徴的なフォルムであったということを、僕は本書で初めて知った。
 そういえばヨーロッパの建物の内部には螺旋状の階段が至るところに存在する。ネジ釘(くぎ)のようにねじれながら上昇し、下降する階段がヨーロッパの精神と肉体をひとつに結びつけていたことに気づいた時、僕は自作の中にも螺旋や渦巻きを導入していたことを発見して驚いた。
 著者がヨーロッパの螺旋の文化史を構築するためにたどる肉体と精神の旅は、本書でも触れられているウィリアム・ブレイクの「ヤコブの夢」と題する絵——天に向かう螺旋の階段を昇る天使たちの光景——とどこか二重写しになっていく。
 著者は、ヨーロッパ全土に展開される螺旋や渦巻きがヨーロッパの機械文明の基本として、ヨーロッパ文化の形を形成していると論じ、神話から政治、芸術、祝祭、食生活に至る様々な場での効用を200点の図像を挙げながら具体的に解明していく。
 この書を読みながら僕はふと人間の肉体に宿る渦巻き螺旋の形態に想像が及んだ。指紋、つむじ、三半規管など、すでに自分自身が渦巻きの原型であることを。また人間のDNAの二重螺旋構造がマクロの宇宙空間に茫洋(ぼうよう)と浮かぶ渦巻き星雲と相対する時、人間と宇宙の間をつなぐ壮大な空間になぜか、輪廻(りんね)と転生のビジョンを夢想してしまうのだった。
 評・横尾忠則(美術家)
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 八坂書房・2520円/しのだ・ちわき 43年生まれ。比較神話学研究組織GRMC主宰。『人狼変身譚』など。

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