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捕食者なき世界 [著]ウィリアム・ソウルゼンバーグ 

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2010年10月17日

[ジャンル]科学・生物 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■生物多様性崩壊の理由

 示唆に富む書である。未来が悲しくなる書でもある。むろんその大半の理由は、人類がつくりだした価値観や文明観そのものが問われる内容を含んでいるからである。
 本書によれば、どのような空間にも生物の捕食と被食の関係があり、それが頂点捕食者のもとにピラミッドの関係をつくっているという。科学を一般にわかりやすく説明する文筆家の著者は、その関係をふたつの面から地球規模で追いかけている。ひとつは、それぞれの空間での頂点捕食者に人類が関(かか)わっていくためにその生態系バランスが崩れていること、もうひとつはこの検証のために、あらゆるタイプの生物学者(古生態学者や保全生物学者など)が参加し、そして同じような結論に達することが指摘されていることだ。まるで生物学者は警世の忠実な使徒でもあるかのようだ。
 興味のある事実が次々に紹介されていく。ベネズエラのグリ湖の小さな島で見られた雑食性のサルを頂点とする空間では、このサルを捕食する者が存在しないために独自の生態を示すようになった。集団は崩壊し、サルは孤独な個体となり、「木々さえも、サルたちに復讐(ふくしゅう)」し始める。葉をすべて食べつくされた木が新たに出す芽には毒素が含まれるようになり、朝食は服毒の時間となった。森は裸同然になるが、それはアルマジロなど捕食者のいなくなったアリが自然を大きく変えたためだ。やがてこの地のサルもアリも絶滅するだろう。こうした例をイエローストンのオオカミなどを含め数多く語り続ける。
 意外な事実も知らされる。私たちが飼っているイエネコは、この500年間で世界中に広まり新天地にもちこまれるたびに多くの種を絶滅に追い込んだという。捕食者は被食者が存在することによりその生を保つが、被食者を食べつくしたときにごく自然に彼らもまた絶滅する。そのサイクルの中で人類はいまや捕食の頂点に立つ。が、「この未熟者」は、「捕食と被食の歴史を葬り去り」、想像もつかない破滅の道へ進んでいるとの結論に愕然(がくぜん)とする。
 (評・保阪正康 ノンフィクション作家)
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 野中香方子訳、文芸春秋・1995円/William Stolzenburg 米国の科学ジャーナリスト。

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