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ふたつの枷 [著]古処誠二 

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2010年10月10日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■戦争の「日常」と「非日常」描く4編

 本書には、戦争と人間の生の姿を描く小説4編が収められている。いずれも一兵士が戦場で体験する戦争の「日常」と「非日常」を取りあげているが、その兵士の目と彼に関(かか)わる下士官、将校を通してはるか遠くに存在する大本営の軍事指導者たちの戦略そのものが浮かびあがるテーマの重い戦争小説である。
 舞台は太平洋戦争下の四つの戦場、とくにその最終局面に絞るのだが、そこに必ず戦地の住民である「少年(青年)」が登場し、その廉潔な目で日本兵を見つめる描写に、著者の視点がこもっている。「帰着」という作品のビルマ少年に自らを殺害するよう命じる日本兵の心理は、読者に鋭い問題を提示している。著者は元日本兵の孫の世代にあたる作家だが、目の位置が確かなだけでなく、「戦の苦痛は激しさに比例するのではなく、戦闘態勢を維持する時間の長さに比例する」など、軍事についての的確な知識をもとに執筆していて、戦争体験者が書いたかのような迫真性がある。
 そのたゆまぬ努力と感性は、戦記文学の先達に通じる資質である。それを理解する編集者の誠実な本づくりが胸を打つ。
 保阪正康(ノンフィクション作家)
   *
 集英社・1575円

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