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オスは生きてるムダなのか [著]池田清彦 

[評者]田中貴子(甲南大学教授)

[掲載]2010年10月03日

[ジャンル]科学・生物 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■メスだけで生殖できる生き物も

 こんにちは。子どもなんでも相談室です。今日のご相談は小学5年生の男子からいただきました。「テレビ番組で、メスだけで子孫を残すことのできる魚を見ました。ということは、オスは必要ないのでしょうか。心配です」。なるほど。性に目覚めるお年頃だから、人間の場合も男が不要になるかと思ったんだね。
 ちょうどこの相談にぴったりの本が出たから、それに従ってお答えしましょう。ちょっとショッキングな題名ですが、色々な生物を例にとって、「なぜ性があるのか」という問題から解き明かしてくれています。
 確かに、メスだけで生殖する生物はいるそうです。でも、その方法は多様で、オスの精子が何らかのかかわりを持つ場合もあります。一つの性だけで生殖すると、遺伝子情報が同じになってしまう欠点があるんだよ。
 性の区別がない生物も存在するのに、メスとオスの両性があるのは、環境の変化に対応できるさまざまな遺伝子を持った個体を作るためといわれています。でも、(ここからがこの本のテーマになるんだけど)生殖では精子は遺伝子情報を卵子に送り込むだけの働きしかしていなくて、生物の体の土台を作るのは卵子の方なんだって。「メスは子どもを作るのにオスはいらない」「オスは余剰で無駄といえる」と、著者はきっぱり言い切ってしまっています。
 果たしてこれが正解なのかわからないし、著者自身、性がどのようにして分かれるかは複雑な要因によると述べていますので、一つの仮説として読むのがよいのではないでしょうか。
 オスとメスは違うからこそ生物が安定して存続できるわけですから、その違いが優劣に結びついてしまうのがいちばん困るし、怖いことですね。
 どうかな? 相談者の5年生くん。オスがムダかどうかは、きみが将来解明する問題になるかも知れませんね。友達に自慢できる雑学も豊かになります。
 でも、ヒトはどちらかというと一夫多妻の傾向があると書いてあるけれど、その話は絶対お父さんにしちゃだめだよ。
 評・田中貴子(甲南大学教授・日本文学)
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 角川選書・1470円/いけだ・きよひこ 47年生まれ。早稲田大学教授。『構造主義科学論の冒険』など。

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