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「日米安保」とは何か [編]藤原書店編集部 [著]塩川正十郎、中馬清福ほか

[評者]姜尚中(東京大学教授・政治学、政治思想史)

[掲載]2010年10月03日

[ジャンル]政治 国際

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■平和と繁栄の「安定剤」か脅威か

 「日米安保」とは何か。
 大戦の勝者と敗者を結びつけ、その締結からおよそ60年近くにわたって存続し続けてきた日米安保は、時間とともに変化し、また同時に変わらなかったとも言える。安保の戦略的な目的や範囲は、アジア冷戦の初期やデタント(緊張緩和)の時期さらには冷戦終結後の1990年代以降、何度かの脱皮を遂げ、その間、安保は、本著で中馬清福が指摘するように「何の説明もなしに」、「日米同盟」と呼ばれるようになった。
 しかし、それは一貫して米軍事戦略という一本の線の上を走り続けてきたのである。つまり、安保は歴史とともに変容を遂げながらも、その変化の起動力は一方的に米国側にあったのだ。にもかかわらず、なぜ安保は解消されることなく、その生命を維持し続けてきたのか。
 本書に登場する論者たちの立場は様々だ。それは、安保を肯定するか否定するかによって変わらざるをえない。だが、その立場の違いにもかかわらず共通しているのは、日本が米国に抱きつき、そして米国は死んでも同盟国を離すことはない、ということである。
 この限りで日米安保は、日本にとって戦後の「国体」にも等しい呪縛力をもち続けてきた。それを、平和と繁栄の「安定剤」(スタビライザー)とみなすのか、あるいは逆に脅威とみなすのか。その評価は安保によってもたらされる受益と負担の立場によって異なってこざるをえない。なぜなら安保によって日本は多くのものを得、そしてまた多くのものを失ったからである。
 このことを考える上で本書で最も教えられたのは、原貴美恵氏の「分割された東アジアと日本外交」の章である。まるで日中間のシリアスな領土問題の発生を予見するかのように、なぜ安保が日本と近隣アジア諸国との関係を「未解決の諸問題」として残すようになったのか、その歴史的な遠因をより広いコンテクストの中で明らかにしてくれるためだ。
 はっとするような発言や刺激的な洞察に満ちた本である。
 評・姜尚中(東京大学教授・政治思想史)
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 藤原書店・3780円/しおかわ・まさじゅうろう 元財務大臣▽ちゅうま・きよふく 信濃毎日新聞主筆

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