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スターリンの対日情報工作 [著]三宅正樹著 

[評者]逢坂剛(作家)

[掲載]2010年10月03日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝 新書 国際

表紙画像

■日本人スパイの正体にも迫る

 実績豊かな現代史学者の手になる本書は、中身の濃い労作である。第2次大戦中のソ連の日本に対する情報活動の全貌(ぜんぼう)が、手際よくまとめられている。
 当然ながら、ゾルゲ事件に費やされるページが、最も多い。中でもゾルゲがコミンテルンとソ連赤軍第四本部の、いずれの組織に所属していたか、それがいかなる意味を持つかについて綿密な分析が行われている。
 また、日独防共協定に付された秘密軍事協定の存在を、いち早くスターリンに報告したクリヴィツキーに関する考察も、新旧の資料を駆使して余すところがない。さらに、当時の日本の外交暗号が米英ばかりかソ連にも傍受解読されていた事実が、一章をあてて紹介される。
 圧巻は、従来あまり語られることのなかった、日本人スパイ〈エコノミスト〉について、その正体に鋭く迫るくだりだ。これまでに元ソ連駐在大使館参事官の天羽(あもう)英二など、何人か〈エコノミスト〉に擬せられた人物がいたが、著者はソ連から出た機密文書などから、別のある人物を指名する。
 スターリンの対日情報工作を描いて、過不足のない入門書といえよう。
 逢坂剛(作家)
   *
 平凡社新書・819円

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