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アカデミック・キャピタリズムを超えて-アメリカの大学と科学研究の現在 [著]上山隆大

[評者]植田和男(東京大学教授)

[掲載]2010年09月26日

[ジャンル]歴史 経済

表紙画像

■世論へ緊張感、潜在的需要を発見

 米国の大学の底力は強い米国経済、政治外交の源の一つである。強さの秘密はどこにあるのだろうか。本書は、自然科学分野を中心に、この問いに多面的に迫る良書である。
 米国の大学のユニークさは大学の外の社会への開放性と、能力主義による厳しい競争にある。歴史的経緯から政府の研究資金援助だけには頼り切れず、時代ごとに異なった主体からの支援を受けてこなければならなかった。カーネギーやロックフェラーだったり、政府の軍事研究資金、また、最近では多様な私企業からの寄付といった具合である。必然的に世論に対して、緊張感をもって自らの研究の有効性を訴え続けるという政治的な視座を持ち続けた。その中で研究に対する社会の潜在的な需要も汲(く)み取ってきたのである。
 世論説得の例としては、基礎研究、応用研究の区別、そして前者が何倍もの波及効果で後者を支えるという「神話」があるという。このストーリーで米国の研究者は基礎研究に多額の資金を引き込んできた。波及効果の存在というわかりやすい構造が経済学者までをも味方につけて宣伝の道具とした一方、安易な認識に流れすぎた経済学の方に本格的な技術の分析が育っていないという指摘も興味深い。
 1980年代以降の生命科学の発展は米国の大学に難しい問題を突きつけている。この分野の発見は新しい情報という性格が濃いため、発見者が自らの貢献を明らかにするために特許を取ることが増えた。それにつれて、研究成果が有用なものであるほど莫大(ばくだい)な富を発見者にもたらし、公的な支援をも受けている大学のあり方として適切かどうかが問われている。しかし、著者はここでも米国の大学の将来に楽観的である。こうした問題を発生させる市場との結びつきは、長期的には一段と研究の創造性や応用可能性を高めることにつながるという。
 それにしても政府からの資金に厚く守られてきて、急に外部資金も自己調達するようにと宣言され、あたふたしている日本の大学との差にはため息が出るばかりである。
 評・植田和男(東京大学教授・経済学)
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 NTT出版・3360円/うえやま・たかひろ 58年生まれ。上智大学教授(経済史・科学技術史)。

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