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絶倫食 [著]小泉武夫 

[評者]平松洋子(エッセイスト)

[掲載]2010年09月26日

[ジャンル]科学・生物 医学・福祉

表紙画像

■人間の発想力に、随喜の涙

 わたし、おののいたんです。
 小泉先生ったら、すごい。
 いきなり「男の勝負食」だなンて、そんな。
 ——もういいですか、すみません。宇能鴻一郎もむっくり、過酷な夏を無事にくぐり抜けた紳士淑女へ贈る起死回生の一冊、それが『絶倫食』である。
 古今東西、そちらの方面へひとが向かうときの探求心、向上心は海よりも深く、空よりも広い。同輩諸君いざ蜂起せよ!と小泉先生は懸命に尻を叩(たた)く。
 まず、食養生の思想「医食同源」を獰猛(どうもう)果敢に実践する中国の創意工夫を持ちだして、軽くジャブ。ガマガエルの耳腺の分泌液。蛇。虎の骨。キノボリトカゲ。カマキリの卵。伝説の酒「至宝(ツバオ)三鞭酒(サンビエンチュウ)」に仕込む御三家は雄のオットセイ、雄の山オオカミ、雄の鹿……きりがない。
 とまあ「六十七歳にして現役バリバリ」(本人談)、食の探検家は、熱のこもった文献渉猟と懇切ていねいな解説でもって、せつせつと絶倫への道を説く。
 そちら方面の探求にかけては中国もインドもすごいが、江戸の日本のそちら方面もすごい。山椒魚(さんしょううお)やマムシ、八ツ目鰻(うなぎ)あたりは常識、「蚕が繭をつくるために口から吐きだす糸を丹念に集めて、それを丸薬状にした強精剤」があったというのだから、江戸人も手間ひまかけてます。
 圧巻はやっぱり、日本最古の医学書とされる平安中期に編まれた全30巻『医心方』、そのうち2巻「房内記」の紹介でしょう。思わず息を呑(の)む房中術は微に入り細を穿(うが)って迫力満点、とうぜん食べる精力剤も続々登場。「交尾しない雄の蛾(が)の乾(ほ)したもの」など、いちいち効力を問うのは野暮(やぼ)というもの、むしろ人間の発想力に感銘を受ける。草食男子ならびに水筒男子のみなさんは尻尾(しっぽ)を巻いて逃げ出すこと、請け合い。
 ひるまず、迷わず、たじろがず。人類が希求してきたマボロシの道をぐいぐい進む小泉先生の真摯(しんし)なすがたが、まことにすばらしい。さらには巻末。奥付をめくると、そちら方面の書物の自社広告がずらりと並ぶ。あまりの面倒見のよさに随喜の涙がほとばしる。
 評・平松洋子(エッセイスト)
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 新潮社・1365円/こいずみ・たけお 43年生まれ。東京農業大名誉教授。発酵学、食文化論。『発酵』。

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