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アジアの激動を見つめて [著]ロバート・A・スカラピーノ

[評者]久保文明(東京大学教授)

[掲載]2010年09月19日

[ジャンル]政治 国際

表紙画像


■優れた研究者の愛に満ちた応援歌

 著者はわが国で長年、日本政治の専門家として知られてきた。アメリカでは、日本政治が専門であっても、授業ではアジアあるいは極東の政治といったタイトルのもと、複数の国を扱わなければならないのが普通である。それにしても本書を読んで舌を巻くのは、著者が日中韓などの他に、モンゴル、ラオス、ミャンマーなども含め、アジアのほとんどすべての国に関心を示し、実際に訪ねていることである。
 著者は多くの大統領から助言を求められ、政権入りの誘いさえ受けながら、一度も政府の職についていない。むしろ研究と教育に専念してきた。それが著者の生き方なのである。にもかかわらず、アメリカ国内およびアジア諸国の政府高官や指導的知識人と深い関係を作ってきたことは驚きである。これは現地に行き、現地の人の話を聞くことを重視する研究姿勢の結果でもあろう。
 日本については、1959年から沖縄返還を提言していたことが注目される。これは当時のアメリカでは圧倒的に少数意見であった。最近では、中曽根・小泉元首相の指導力を高く評価する。全体的に早くから近代化を成し遂げ、豊かで安定した社会を構築した日本に対する評価は高く、国連で常任理事国となることも当然であると述べる。
 アメリカにおける政治と研究者の関係という文脈においても、本書はおもしろい事例を提供している。著者はアメリカによるベトナム戦争遂行を支持したが、それによって60年代後半には反戦派活動家から激しい批判と脅しを受けた。しかし、著者は自説を曲げることはなかった。おそらく学界では長らく居心地の悪い思いをしてきたことと推察される。
 著者の活動範囲の拡大は著者自身の広い問題関心の反映であり、またその優れた業績のためであるが、同時に著者が研究対象にしたアジア自身の台頭と成長の結果でもあった。本書は一学究の回顧録であるが、著者によるアジア政治研究のエッセンスであり、また愛に満ちたアジアへの応援歌でもある。
 評・久保文明(東京大学教授・アメリカ政治)
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 安野正士ほか訳、岩波書店・3150円/Robert A. Scalapino 19年生まれ。カリフォルニア大学名誉教授。

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