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話す写真-見えないものに向かって [著]畠山直哉 

[評者]石川直樹(写真家・作家)

[掲載]2010年09月19日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■見慣れた世界を揺さぶって

 自身の作品制作の裏側から、これまで写真とつきあってきた過程、写真史やアートとは何かということまで、畠山直哉が写真についてあますところなく語ったのが、本書である。これまで彼がおこなった講演や講義などがもとになっていることから、たとえ専門的な議論であったとしても、それが語り口調であるために、写真に親しくない読者でも跳ね返されてしまうことはない。畠山自身が、明確な「撮る理由」をもち、写真に言葉が追いつかんばかりに明晰(めいせき)な思考を有しているがゆえに、写真に関(かか)わる人ばかりでなく、建築や絵画、あるいは熟練した職人のような人々にも受け入れられる性質をもった稀有(けう)な書物だと思う。
 職人という言葉を使ったのは、写真家としての畠山が、写真職人とでも呼びたくなるような人物だからである。彼の写真に対する姿勢には、「なんとなく」や、ごまかしのようなものがない。写真は自然科学によって生まれた技法であって突飛(とっぴ)な魔法ではないから、シャッターを切ってプリントができあがるまでの過程が当然存在する。「写真は世界共通の言語」などという紋切り型の言い回しに安住したり、「私は私」と言い切って分かち合いを諦(あきら)めたりせず、読み手や聞き手に伝わる言葉を慎重に紡いでいる畠山の姿勢に、ぼくは彼の誠実さを見る。
 師匠である大辻清司に写真を見せて「説明的な要素をできるだけ省いてみたらどうですか」と言われた学生時代にはじまり、発破の瞬間をとらえた「Blast」、渋谷川の暗渠(あんきょ)を撮影した「Underground」など、一度見たら忘れられない作品へと続く畠山の一連の取り組みは、見慣れた世界を別の角度から照射して、鑑賞者の心を揺さぶり、幾多の新しい発見や驚きをもたらしてくれる。
 それはとりもなおさず、彼自身に世界を知りたいという強い思いがあり、光と対話しながら世界への理解を深めていく術として写真と長くつきあってきたからだろう。この本はそのような彼からの呼びかけであり問いかけそのものである。
 評・石川直樹(写真家・作家)
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 小学館・2100円/はたけやま・なおや 58年生まれ。写真家。写真集に『Underground』など。

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