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抵抗と協力のはざま-近代ビルマ史のなかのイギリスと日本 [著]根本敬

[評者]中島岳志(北海道大学准教授・南アジア地域研究、政治思想史)

[掲載]2010年09月12日

[ジャンル]政治 ノンフィクション・評伝 国際

表紙画像


■したたかに政治的自立探る

 「ビルマ(現ミャンマー)近代史の学術書」と聞くと、読書家でもなかなか食指が動かないだろう。しかし本書をぜひ、手にとってほしい。ビルマ独立運動に従事した若き政治家・活動家が、植民地権力への「抵抗」と「協力」のはざまで苦闘した軌跡が見事に描かれているからだ。
 本書が対象とするのは、イギリス・日本の統治から独立を勝ち取る時期のビルマ。初代首相バモオ、国民的英雄アウンサン、その暗殺者ウー・ソウといった政治エリートやビルマ共産党メンバー、行政エリートの歩みを丹念に追い、多様なアクターの主体性を浮かび上がらせる。彼らが懸命に植民地権力と渡り合い、時に妥協や協力を繰り返しながら、したたかなナショナリストとして独立を勝ち取ったプロセスが描かれる。
 何といっても興味深いのは、第2章で描かれるバモオの生涯だ。彼は1937年のビルマ統治法施行後、史上初のビルマ人首相となり、政治の第一線で活躍。39年に首相の座を明け渡したものの、「反英の闘士」となって支持を受け、逮捕・投獄された。第2次大戦中は「対日協力」の道を選択し、日本から与えられた形式的「独立」において、国家元首兼首相の座につく。
 バモオは43年11月に東京で開催された大東亜会議に出席。日本の影響下で、ビルマ語の公用語化の推進や国家元首の権威強調など、政治的自立の糸口を探った。
 バモオの行動は、一見すると日本帝国主義に従属しているように見える。しかし著者は、彼の行動の中に、日本の支配権力を巧みに飼いならしながら自国民の主体的領域を拡張するしたたかな政治主体を見出(みいだ)す。
 結局、バモオは日本の敗戦によって地位を失い、密(ひそ)かに日本に身を潜める。再び英領となったビルマでは、抗日闘争に転じたアウンサンが主導権を握り、政治的復権の道は閉ざされた。
 抵抗/協力という二分法では割り切れないアジアの独立運動。その両者の「はざま」に注目し、当事者の苦悩や葛藤(かっとう)、戦略などを丁寧に救い上げた本書は、読み応え十分。お薦めの一冊だ。
 評・中島岳志(北海道大学准教授・アジア政治)
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 岩波書店・2940円/ねもと・けい 57年生まれ。上智大学教授。『アウン・サン』など。

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