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一〇〇年前の女の子 船曳由美著 

[評者]酒井順子(エッセイスト)

[掲載]2010年09月05日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■当時の風俗と人々の気持ち伝える

 「お母さんも、かつて少女だった」という事実に、娘は大人になってから気付くものです。母親はずっと昔から「お母さん」であったと子供時代は思っていましたが、そんな母親にも少女時代や思春期があったということを、娘は次第に理解していくのです。
 本書の主人公は、昨年百歳を迎えた寺崎テイさん。栃木県のとある村に生まれたテイちゃんという女の子が、どのように成長し、大人になっていったかを書いた著者は、テイさんの娘さん。長く編集者として活躍した著者は、テイさんの人生を詳細に調べ、テイさんの気持ちになってこの本を書くことによって、母親を一人の人間として理解しようとしました。
 テイさんは、有名人ではありませんし、激動の人生を送ったわけでもありません。しかし読むうちに引き込まれ、思わず小さなテイちゃんにエールを送りたくなるのは、彼女が一〇〇年前の、普通の女の子であったからなのでしょう。汽車が通る度にかまたきの小父(おじ)さんが子供たちにキャラメルを投げてくれた時の、嬉(うれ)しさ。懸命に勉強して、女学校を受験した時の、緊張。テイちゃんの感情は、いつの間にか自分のものになっています。
 一○○年前の女の子の暮らしは、今とは全く違うものです。季節ごとに様々な行事があり、お祖母(ばあ)さんがその指揮を執る。村の中には今で言うところの格差はあるけれど、そのことを感じさせないような気遣いも、お祖母さんが孫たちに教えていく。テレビはないけれど、富山の薬売りやら、越後の寒紅売りといった外からやってくる人たちが、外の情報はもたらしてくれる……。
 一○○年前の生活風俗と、人々の気持ちとを正確に伝える本書は、娘から母に対する愛の書でもあります。「お母さんがお母さんでなかった頃」のお話は、娘にとって眩(まぶ)しく、哀(かな)しく、そして誇らしい。母と娘の間に存在する幸せな紐帯(ちゅうたい)が完成させたこの本は、読者の脳裏に、母との記憶を喚起させるのです。
 評・酒井順子(エッセイスト)
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 講談社・1680円/ふなびき・ゆみ 38年生まれ。出版社勤務を経て、現在はフリー編集者。

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