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セラフィーヌ [著]フランソワーズ・クロアレク 

[評者]横尾忠則(美術家)

[掲載]2010年08月22日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能 医学・福祉

表紙画像


■神の啓示、芸術の天才と狂気

 6歳で孤児になったセラフィーヌ(素人歌手スーザン・ボイルに似ている)は修道院で家政婦をする田舎女だが、ある日聖母から「お前は絵を描かなければならない」と啓示を受け、天上の存在との交信が開始された。セラフィーヌ41歳だった。
 絵の経験のない彼女は神の道具として従った。芸術家の才能と霊感は無縁ではないが彼女は秘密の声と交わしながらまるで性交のように絵を描いた。そんなある日ピカソやルソーと交流のある画商ウーデと出会い、彼から経済的支援を受けることになる。こんな運命の開花も神の指示によるものらしい。
 だけれどもここに落とし穴があった。やがて世界的名声の幻想に浸り始めたセラフィーヌは栄光と没落を同時に味わわされることになる。理性を手放した彼女は一歩ずつ狂気に近づいていく。そしていつの間にか天使は悪魔に追放されて、彼女は名誉欲と物質欲に翻弄(ほんろう)され、聖母や天使との回路を自らが断ち切ることになる。
 そして誇大妄想と強迫観念と幻覚症状に襲われ続けて、絵も描けなくなり、ついに精神病院で一生を終わる。著者は彼女の「天才と狂気」を、創造のレベルで論じられるべきであると記しながらもセラフィーヌに対する疑問がわれわれにどんな影響を呈するのだろうか? と自問しながら結んでいる。
 確かに彼女は神の道具であろうとしたが一般の芸術家が受信する霊感のレベルではなく、むしろコンタクトの次元だ。もし神に目的があるとすれば彼女を道具として神の波動を世の中にもたらす計画があったと推測でき、その計画は半ば成功したかに見えるが、彼女の度を超した名誉欲と物質欲は神の意志に反する願望であったように思える。彼女が増長し始めた頃、天使が彼女に忠告をするが、その声を無視して個人的欲望の具現者に変容していく。
 従って神が彼女を見放したとも考えられよう。神への依存が断たれたセラフィーヌは、神無き後、もはや彼女には自立した生き方は不可能になっていたのである。
 評・横尾忠則(美術家)
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 山形梓訳、未知谷・2100円/Francoise Cloarec フランスの精神療法技術者・精神分析医、作家、画家。

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