書評・最新書評

獣の樹 舞城王太郎著 目が離せない、成雄サーガ

[評者]斎藤環(精神科医)

[掲載]2010年08月08日

[ジャンル]文芸 科学・生物

表紙画像

 本作の主人公は超人的な俊足少年・成雄だ。そう、同じ作家による『SPEEDBOY!』や『山ん中の獅見朋成雄(しみともなるお)』に連なる物語である。成雄は雌馬の腹から産み落とされ、背中に鬣(たてがみ)を持つ謎の少年だ。
 本作の縦糸は成雄の出自をめぐる謎解きだ。ここに彼を引き取った河原家の長男・正彦との友情や大蛇に乗った少女・楡(にれ)との恋が交錯する。さらに成雄の父親である科学者による生命操作、大蛇を操る子供のテロリスト集団によるクーデター、さらにその集団を殲滅(せんめつ)すべく介入するCIAが絡み、物語は途方もない広がりをみせていく。
 荒唐無稽(こうとうむけい)にもみえるイマジネーションの奔流に説得力をもたらすのは“舞城印”とも言うべき文体だ。内面描写を抑圧し、せき立てるように連鎖する会話と行動。その縦ノリのビートが高速・高圧の文体を駆動する。
 自分のルーツである動物を探す成雄の探求は、やがて「人間とは何か」の答えにたどりつく。その答えはしかし、「悪」とは何か、「倫理」は可能かという問いの端緒にすぎない。成雄サーガのゆくえからは、当分眼(め)が離せそうにない。
 斎藤環(精神科医)
    *
 講談社・1450円

関連記事

ページトップへ戻る