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近代日本の戦争と宗教 [著]小川原正道 

[評者]中島岳志(北海道大学准教授・南アジア地域研究、政治思想史)

[掲載]2010年08月01日

[ジャンル]歴史 人文

表紙画像

■存在脅かされ「過剰適合」


 近代日本は、さまざまな戦争を経験してきた。戊辰戦争、西南戦争といった国内戦争から、日清・日露戦争のような対外戦争まで、近代日本の歩みは戦争と切り離して考えられない。
 本書は、戦争に対する宗教側の対応を詳細に追っている。特に戊辰戦争から日露戦争までの明治期に焦点を絞り、仏教・神道・キリスト教の各派がいかに戦争に適応・従属していったのかを論じる。
 中でも著者は浄土真宗の動向に注目する。本願寺は17世紀初頭に東西に分裂し、東本願寺は徳川家との密接な関係を築いた。その関係から東本願寺は幕末の長州征伐でも幕府側につき食料などを提供。一方、西本願寺は吉田松陰に近い僧侶の影響によって「勤王」の傾向を強め、反幕府の姿勢をとった。
 結果、新政府樹立により東本願寺は苦しい立場に立たされる。新政府から態度を問われると、一転して朝廷側に従うことを明言。一方の西本願寺は、より一層「勤王」の姿勢を誇示し、新政府に擦り寄った。
 戊辰戦争では、東西本願寺は「『時勢』の陰に取り残されないための、懸命の努力を重ね」、戦争に過剰適合していく。彼らは莫大(ばくだい)な献金を行い、門徒を「勧励」。新政府側も、両本願寺が提供する豊富な資金や米穀、門徒のネットワークを利用して戦争を展開し、両者は「相互依存の関係」になった。
 こうした中、東西本願寺は「真俗二諦(にたい)」という方針を示す。これは仏教の真理と世俗の真理が共に真理として両立することを説くもので、この論理がのちのち信者に戦争協力を呼びかける根拠となった。
 日清・日露戦争では、教団は国家の方針に追随し、戦争を正当化。僧侶の従軍は、次第に海外での開教へと発展し、日本の植民地統治を補完していく。
 本書は史料に基づき、実態を丁寧に追うことによって、宗教団体がいかに国家と向き合ったのかを見事に描き出している。協力、支援、沈黙、逃避、批判。戦争に対して様々な態度を示した宗教界の動向を見つめなおす絶好の書。
 評・中島岳志(北海道大学准教授・アジア政治)
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 講談社選書メチエ・1575円 おがわら・まさみち 76年生まれ。慶応大学准教授(近代日本政治史など)。

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