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溥儀の忠臣 工藤忠 忘れられた日本人の満洲国 [著]山田勝芳

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2010年08月01日

[ジャンル]歴史 ノンフィクション・評伝

表紙画像


■ “アジア主義者”の人生を精緻に

 工藤鉄三郎(のち満州国執政の溥儀に「忠」の名を与えられ改名)は、いわゆる大陸浪人として扱われてきた。著者は本文中で、「怪しげなことをしていた得体(えたい)の知れない人間だと、簡単に決めつけることはできない」と評し、「溥儀に人生を捧(ささ)げた“アジア主義者”」と位置づけるよう主張している。
 本書は、工藤の人生を精緻(せいち)になぞりつつ、その時代背景を日中関係史のある断面に絞り、そこで主体的に善意や温情にあふれた人物が歴史的にはどのような役割を果たすことになったかを一枚の人物画の如(ごと)く描きだす。工藤に見られるアジア主義はなぜ変質するのか、同郷の先達である陸羯南や山田良政の思想や実践がどのように反映したのか、生来の体力と度胸で4年にわたり中国各地を歩き回っての中国観とは何か、溥儀の心をつかんだ工藤は近代日本の陰の存在なのか、それとも表舞台に出るべき人物だったのか。
 昭和17年に日中和議のための建白書づくりに奔走するが、その署名者や文面にやはり工藤の錯誤があるのかもしれない。著者の意欲をどう受け止めるか、重い課題を含んだ書である。
 保阪正康(ノンフィクション作家)
   *
 朝日新聞出版・1575円

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