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都市をつくる風景 「場所」と「身体」をつなぐもの [著]中村良夫

[評者]辻篤子(本社論説委員)

[掲載]2010年08月01日

[ジャンル]社会

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■「破れ障子」の街、再生への道

 「風景」を手がかりにした、日本再生の書、である。
 著者は景観工学の第一人者であり、「風景学」の提唱者でもある。日常の生活空間としての風景はそのまま、社会のありようを映し出す。風景を通して、心豊かな暮らしのある町づくり、国づくりの道を探る。
 日本の風景は「破れ障子」のようになった、という。西欧のあとを追う近代化は、一言でいえば生産力の向上だった。その結果が「いかにも薄っぺらな町並みの中で営まれる貧相な市民生活」であり、混沌(こんとん)とした今日の都市の姿を生んだ。
 「国会議事堂の裏手に立ち上がった高層ビルが日本の民主主義を足蹴(あしげ)にした」「粘菌状の都市がついに融(と)けだして無限漂流を始めた」「赤くかぶれた皮膚病的景観が蔓延(まんえん)する郊外」……。ラジオ放送をもとにまとめられたこともあるだろうか、都市のイメージをふくらませると同時に、著者の嘆きの深さをもうかがわせる言葉が全編を通して並ぶ。
 無理もない。かつては、自然の風情の中に生を営む山水都市が、西欧諸国の称賛を浴びた。明治には大きな構想力をもった風景があり、大正デモクラシーは町を輝かせた。
 そろそろ「アジア的な精神文化のしなやかな活力と多様性を失わずに、西欧の合理性をのみこんだ円熟」に踏み出す時だ。著者の指摘にうなずく。
 英国では、繁栄にかげりが見えた前々世紀末に、アメニティー運動が盛んになった。風景やアメニティーのような文化の力が経済力にもまして持続性に富む国力の蓄積であり、そこに英国人は新しい豊かさを発見したのではないか、と読み解く。
 日本にとっても、文化の力がかぎを握ることは間違いない。市民の感性によってすぐれた都市文化を創造し、それによって未来を拓(ひら)く。希望は地方都市から芽生え始めた、という。
 では、この東京は、と思う。
 「とどのつまりは市民が自らの人生の舞台である町づくりにどれだけ切実な思いを抱くか」、だそうだ。明日を考えるスタートにしたい一冊である。
 評・辻篤子(本社論説委員)
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 藤原書店・2625円/なかむら・よしお 38年生まれ。東京工業大学名誉教授。専門は景観工学。

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