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内訟録 細川護熙総理大臣日記 [著]細川護熙 

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2010年07月18日

[ジャンル]政治 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■首相在任中に向き合った日々

 首相経験者には在任時の回想記の公刊を義務づけるべきだ、と私は主張している。それが歴史的責任と考えるからだ。
 細川政権は1993年8月からわずか8カ月間とはいえ、政治改革法案やコメ市場の開放など幾つかの実績を積みあげた。なにより55年体制を崩壊せしめ、8会派による連立政権という綱渡り的な政権運営を担った。当の細川護熙首相はどのような考えでこの時代と歴史に向きあっていたのか、本書は日々のメモや記録などを日記風に構成して余すところなく官邸内部の動向を伝えている。
 読み進むうちにすぐに2点に気づく。第1は細川氏自身が教養人として政治と向きあっていたという事実だ。古今東西の思想家や政治家、それに自らの家系に列(つら)なる先達の教えを血肉化している。田中角栄元首相の死に出会った折の『唐詩選』張説からの「昔記山川是 今傷人代非」は深い人生観を示している。第2点は、明確な政治理念と使命感をもっていて、私たちに歴史的普遍性とは何かを教示している。
 太平洋戦争に侵略性があったのは事実、政治家は安易にナショナリズムを煽(あお)るべきではない、中国は共産主義政権ではなく王朝とみるべき、勲章を欲しがる人の態、「誠に見苦しきものなり」、さらに「55年体制というヘドロを洗い流すには清流をもってせずとも泥水にて足れり」とも断言する。細川氏の周辺には後藤田正晴、四元義隆など多くの助言者がいて、その政治家としての資質に磨きをかけていたこともわかるのだ。
 複雑なエピソードも紹介されている。エリツィンが来日したときに密(ひそ)かに伯父近衛文隆(シベリア抑留中夭折〈ようせつ〉)の軍人身分証を手交され落涙とある。こうした話とは別に、8会派の対立、小沢一郎と武村正義の根深い抗争、官邸に出入りする政治家、評論家の、ときにお粗末な意見も顕(あら)わになっている。構成者による関係者の証言を織り込みながらのこの書は、論語から引いたタイトルの意味を同時代人の共通の理解にしたいと訴えているかのようだ。
 評・保阪正康(ノンフィクション作家)
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 伊集院敦構成、日本経済新聞出版社・2625円/ほそかわ・もりひろ 38年生まれ。第79代内閣総理大臣。

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