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シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々 [著]ジェレミー・マーサー

[評者]鴻巣友季子(翻訳家、エッセイスト)

[掲載]2010年07月18日

[ジャンル]人文 ノンフィクション・評伝

表紙画像


■パリの異邦人を異邦人が活写

 カナダの事件記者だった作者がパリで住みついたのは、セーヌ川左岸に立つ風変わりな書店。貧しい作家にただで食事とベッドを与えるその書店とは、伝説の「シェイクスピア&カンパニー」だった。数々の作家を育てた同店は文学賞と文芸誌の立ち上げを先日発表したばかり。その生活を綴(つづ)った本書の登場は嬉(うれ)しい。
 本書の扱う「シェイクスピア&Co.」は実は2代目だ。初代は1920年代にパリのアメリカ人が開店した書店で、失われた世代の作家やフランス詩人らが集ったパリ時代の象徴。この精神と店名までちゃっかり継承した2代目店主は「見知らぬ人に冷たくするな、変装した天使かもしれない」をモットーに、作家の卵をびしびし育てた。店にはH・ミラーやビートニク作家が集まり、無名詩人が脚光を浴び、ロマンスが生まれる。しかし破天荒な店主が雨上がりに、お揃(そろ)いのレインコートを着た父親と三人の男児に目をとめ、自ら手放した家庭の喜びを想(おも)う小さなくだりなどに、本書は深い煌(きら)めきを宿す。パリの異邦人を異邦人がチャーミングに活写。極上のメモワールだ。
 評・鴻巣友季子(翻訳家)
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市川恵里訳、河出書房新社・2730円

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