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光るクラゲ 蛍光タンパク質開発物語 [著]V・ピエリボン、D・F・グルーバー

[評者]辻篤子(本社論説委員)

[掲載]2010年07月11日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像


■「受賞前」に書かれた科学者群像

 下村脩博士のノーベル賞受賞ですっかりおなじみになった光るクラゲの、帝政ローマに始まる研究史である。
 原著の出版はノーベル賞の3年前だから、登場する多くの科学者たちの中から3人選ぶとすれば誰か、と考えながら読み進むのも面白い。下村さんの功績にはだれも異論はないだろう。
 紹介されるエピソードは実に興味深い。この分野の大御所である米国人は新婚旅行で日本を訪れ、東大三崎臨海実験所近くの海でウミホタルに魅せられた。そしてその弟子が下村さんを米国に呼び寄せた。日本との不思議な因縁を感じさせる。
 米国のある研究者が、下村さんが発見した物質の遺伝子を取り出したことが利用の道を開いたが、その遺伝子に関心を持って連絡してきたのは2人だけだった。その着眼によって彼らは共同受賞者となる一方、遺伝子を気前よく分けてあげた研究者は失業して運転手になった。
 遺伝子が取り出された年、実験材料のオワンクラゲは姿を消したという。環境の変化らしいが、まるで自分たちは必要なくなったと知っていたように。
 研究には時の運もある。
 評・辻篤子(本社論説委員)
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 滋賀陽子訳、青土社・2520円

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