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ビッグイシューの挑戦 [著]佐野章二

[評者]中島岳志(北海道大学准教授・南アジア地域研究、政治思想史)

[掲載]2010年06月27日

[ジャンル]社会 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■ホームレスと社会、絆つなぐ7年

 「ビッグイシュー」という雑誌をご存じだろうか。これは、ホームレスが路上で販売する雑誌で、書店では販売していない。
 定価は300円。うち160円が、販売者の利益になる。一日20冊売れれば、3200円の収入。この金額があれば、何とか食事をとり、ネットカフェなどで寝泊まりすることができる。
 著者は、2003年9月に「ビッグイシュー日本版」を立ち上げた代表者である。今年で発売から7年。現在では全国で3万部以上を売り上げる。
 「ビッグイシュー」はもともとロンドン発祥の雑誌で、1991年の創刊。ホームレスに「施し」を与えるのではなく、ビジネスパートナーとして仕事を提供し、その売り上げで雑誌を運営している。イギリスでの「ビッグイシュー」の評価は高く、ハリウッドスターなども「ギャラなし」でインタビューに応じる。
 そんな雑誌を、著者は仲間と共に日本にもちこんだ。創刊当初は、誰もから「絶対に失敗する」と批判されたという。「チャリティー文化のない日本では無理」「フリーペーパーが溢(あふ)れる時代に、ホームレスから雑誌を買う人がいるわけがない」……。そんなネガティブな声が多く寄せられた。
 しかし、「ビッグイシュー」は紆余曲折(うよきょくせつ)を経ながら、黒字化を成し遂げ、今や「新しい公共」の成功例と称賛される。
 「ビッグイシュー」の人気コーナーは「ホームレス人生相談」。実際に路上の販売者に人生相談をする若い女性が多い。販売者たちは、相談に対して自分の「失敗談」を語る。弱い自分を見せることのできる「おじさん」の言葉は、若い女性の心に届く。
 ホームレスは、単に家を失った人ではなく、希望まで失った「ホープレス」だと著者は言う。「ビッグイシュー」は、彼らが失った社会との絆(きずな)を再構築し、生きる希望を生み出す。
 本書は路上の販売者からも購入でき、彼らに一冊400円の利益が入る。購入にはちょっとした勇気がいるかもしれないが、その勇気が忘れていたやさしさを取り戻す一歩になるかもしれない。
 評・中島岳志(北海道大学准教授・アジア政治)
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 講談社・1500円/さの・しょうじ 41年生まれ。都市計画プランナーを経て、ビッグイシュー日本代表。

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