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ミーツへの道ー「街的雑誌」の時代 [著]江弘毅

[評者]酒井順子(エッセイスト)

[掲載]2010年06月27日

[ジャンル]社会 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■情報でなく街と店への思い載せて

 関西に「ミーツ・リージョナル」(以下「ミーツ」)という面白い雑誌がある、大阪や京都に行くなら「ミーツ」別冊を読むべし、という話を聞いたのは、八年ほど前のこと。京都に行った時に「ミーツ・京都本」を買ってみたらなるほど、それは情報誌のようでありながら、普通の情報誌とは全く違っていたのです。
 何が違ったのか。それは、「ミーツ」編集長を長年務めた著者による本書を読んだら、わかりました。「ミーツ」は、単に情報を並べる雑誌ではなく、街と店に対する思いを載せた雑誌だったのです。自分たちが好きな街の好きな店に、客として行って、書く。客がいない時の店の写真ではなく、臨場感あふれる営業中の写真と、その街を知っているからこそ確立する文体で書かれた文章とによって構成された頁(ページ)は、見せるし、読ませます。
 そんな「ミーツ」のできるまでがこの本では明らかにされているのですが、底流として存在するのは、他の情報誌に対する、懐疑。「情報誌にはおいしい店やカッコいい服やいい音楽が載っているとは限らない」と読者に刷り込んだ罪は大きい、と書く著者が抱く情報誌への懐疑は、我々の消費生活に対する懐疑、そして東京という大都市に対する懐疑にもつながるのでした。
 岸和田生まれの著者は無類のだんじり好きとしても知られますが、地元を愛することができる人は、他の街の美点を発見することにもたけているのでしょう。街と雑誌との相思相愛関係が、そこにはあります。
 著者は「ミーツ」を人気雑誌にした後、会社を去ることになります。その辺りの顛末(てんまつ)とともに、「ミーツ」周辺の人々の名前や活躍ぶりも多く出てくるのですが、知らない人たちの知らない動きを読むうちに、「そういえば雑誌って、この手の『人の動き』が見えるからこそ楽しいのだった」と、雑誌を読む醍醐味(だいごみ)が思い起こされてきます。街的精神が詰まった雑誌についての、これは雑誌的精神が詰まった本なのでした。
 評・酒井順子(エッセイスト)
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 本の雑誌社・1680円/こう・ひろき 58年生まれ。関西のタウン誌「ミーツ・リージョナル」元編集長。

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