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バナナの皮はなぜすべるのか? [著]黒木夏美著 

[評者]四ノ原恒憲(朝日新聞記者)

[掲載]2010年06月20日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■ひたすら追求、収穫また収穫
 「一点突破全面展開」——一読、そんな言葉を思い出した。
 鬱々(うつうつ)とした心で散歩していた著者の前に、バナナの皮が落ちていた。瞬間、バナナの皮で人がすべるギャグを連想し、テンションが回復した著者は、素朴な疑問を抱く。あのギャグは、いつ生まれたのか、と。
 ただひたすらそれだけを追求した本だ。で、面白くないか、といえば、いやいや。次々現れる疑問を追いかけていくたび、収穫は増殖に増殖を重ねる。
 内外の映画、アニメ、マンガ、文学はもちろん、短歌、俳句に登場するバナナやそのギャグ史から、実際に滑ってケガをした人の記録……。時に、ギャグ論や植民地問題にまで、視野は伸びる。その一つ一つが、何やら想像力を刺激するし、全体として豊饒(ほうじょう)な果実を味わい尽くしたような満足感に至る。
 もう一つ。興味深いのは、ネットがなければ絶対に生まれなかった本という点だ。ネットに散在する単なる「情報」を吟味し、書籍資料と組み合わせ、一覧性をもつ本という形にすれば、こんなことも出来る、という可能性をも見せてくれる。いやはや、バナナの皮恐るべし。
 四ノ原恒憲(本社編集委員)
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 水声社・2100円

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