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のけ者 [著]エマニュエル・ボーヴ

[評者]江上剛(作家)

[掲載]2010年06月20日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■借金まみれの母子、破滅への過程

 こんな悲惨な小説は前代未聞、いや前代未読だ。ほぼ全編、ニコラと母親ルイーズが知人という知人に借金を依頼し、踏み倒し、破滅していく過程をしつこく描いている。
 親子は、異常なほどプライドが高い。金がないなら少しぐらい働けと言いたいが、一切働かない。借りた金はすぐ浪費し、無くなればののしり合い、貧しさを恨み、その結果、ニコラは再び借金のために知人を訪ね歩く。彼は23歳。必死になれば、何かしら仕事を見つけることは可能だが、誇大妄想癖もあり、地味な努力をしない。
 さらにセコイ悪人だ。ある日、息子の行方を捜す金持ちの老人に出会う。ニコラは親切な若者を演じ、うそをつき、当てのない捜索に老人を引きずりまわし、幾ばくかの金をもらう。
 こんなどうしようもない男の物語だが、何とも言えず心が慰められる。82年前に刊行された小説と思えないほど心に響く。ニコラ、お前のようにはならないぞと奮いたち、僕のようにならないでとニコラに励ましを受ける。心に鬱屈(うっくつ)がある読者よ、彼よりマシだと思うことで慰められて欲しい。これも小説の効用だ。
 江上剛(作家)
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 渋谷豊訳、白水社・2625円

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