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この命、義に捧ぐ 台湾を救った陸軍中将・根本博の奇跡 [著]門田隆将

[評者]逢坂剛(作家)

[掲載]2010年06月13日

[ジャンル]歴史 ノンフィクション・評伝 国際

表紙画像

■果断を下した武人の数奇な人生

 ここに取り上げられたのは、一般にはほとんど知られていない元陸軍中将、根本博の数奇な人生である。
 1945年8月15日、日本はポツダム宣言を受け入れて、連合国に降伏した。そのとき、根本は駐蒙軍司令官。降伏後は、北支那方面軍司令官を兼務する立場にあった。降伏はしたものの、根本は日ソ中立条約を一方的に破棄し、宣戦布告したソ連軍の非道ぶりを、よく承知していた。司令官として、数万にのぼる麾下(きか)の将兵と在留邦人の命を、彼らの暴虐から守る責任がある。その使命感一つで、根本は武装解除命令を拒否し、なだれ込んでくるソ連を相手に、徹底抗戦を展開する。根本は、その責任を一身に引き受ける覚悟を、決めていた。
 根本の果断のおかげで、大多数の日本人が無事に祖国への帰還を、果たすことができた。その陰にはまた、戦後の天皇制維持を容認し、日本人の帰還を助けた蒋介石の理解と、尽力があった。
 根本は、このときの恩情を忘れず、のちの国共内戦で蒋介石が危機に陥ったとき、彼を支援するために台湾へ密航した。昭和24年7月のことである。著者はそのあたりの経緯を、根本自身の手記や関係者の証言から、丹念に掘り起こしていく。
 根本は、金門島の防衛で軍事顧問を務め、共産軍の上陸作戦を壊滅させて、国民党唯一の勝利に貢献する。もっとも、日本人の力を借りたことは民族的、政治的に不都合とみえて、この事実は台湾でも長いあいだ、伏せられていた。それが、ようやく解禁になったのは、昨年秋のことだという。資料も証人も、ほとんど失われてしまったこのテーマを、よくここまで再構築したものだ、と驚かされる。
 蒋介石に関しては、評価の分かれる部分もあるが、著者は本書を根本博の抱く〈義〉一本に絞って、日本人の持つ特質に迫ろうとする。そこが心地よい。
 名誉や栄光を求めなかった根本も、死後40年以上をへて台湾で復権されたことを知れば、それなりの感慨を覚えるに違いない、と思わされる。
 評・逢坂剛(作家)
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 集英社・1680円/かどた・りゅうしょう 58年生まれ。『裁判官が日本を滅ぼす』『神宮の奇跡』など。

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